体育館まで走ってきた私は、既に後悔し始めていた。どうしよう、紫原くんに嫌われたら。どうしよう、ホントにお菓子以外興味ないって言われたら。と、心臓は変に鳴り出すし、妙な汗は止まらないしで散々だ。
そうこうしてうるうちに、ドア越しに、ビーーーッというタイマーらしき音が聞こえ、集合!という太い声が聞こえた。終わった、ようだ。わたわたと身なりを整えて、紫原くんが出てくるのを待っていると、ドアが開いて、一般的な身長よりもかなり大きな人達が出てきた。


「お。アツシの彼女じゃん!」

「おぉ、ほんとじゃ。おーい、紫原!彼女が迎えに来とるぞー!」

「え、ほんと〜?あ!カンナちん〜!」



福井先輩と岡村先輩が紫原くんを呼んでくれて、現れた紫原くんは普段は見ないくらい汗をかいていて、でも、乱れた髪もその汗もかっこよくて、その上満面の笑みで私を見てくれた。でもその笑顔は、私に向けられた笑顔なのか、私の作るお菓子に向けられた笑顔なのか。



「む、らさきばらくん。お疲れさま!」

「ありがとカンナちん。待っててくれたの〜?じゃ、一緒に帰ろ〜」



着替えてくるから待ってて、と紫原くんは更衣室に入っていった。中から、「なぜワシはモテないんじゃあー!」という、岡村先輩らしき声が聞こえてクス、と笑ってしまった。本来の目的を忘れそうになり、はた、とする。



「カンナちんお待た、いたっ」

「あっ、紫原くん?!」



紫原くんが、出口の上のとこに頭をぶつけた。大きな大きな紫原くんは、大きな人が多いバスケ部の中でも桁違いに大きいらしく。



「いったぁー」

「だ、大丈夫?紫原くん?」



しおしおとしゃがみこんだ紫原くんを、部室の中から福井先輩が笑う。「いつも遅いのに慌てて着替えるからアル。」と劉先輩が溜め息を吐いた。「アツシ、大丈夫か?」と心配するのは氷室先輩だ。



「う〜。カッコ悪いとこ見られたし…」



と涙目で言う紫原くんが可愛くて、痛がっているのに笑いそうになった。そのうち、立ち直った紫原くんが、んじゃ、かえろっか〜、と私の手を取った。あれ、手…?!



「む、むらしゃきばらくん…っ?!」

「なに〜?」



咄嗟過ぎて驚いておもいっきり噛んでしまった。手をつないだ私達を見て、福井先輩がヒュー!と言って囃し立てた。



「て、手、手つな、繋いで…っ?!」

「アララ?だめだったの〜?」



ぶんぶんと首を振って意思表示することしか出来ない。緊張のせいか足が動かなくなって、そのうち、「ま、せいぜい仲良くするアル。」と言いながら劉先輩が帰って行った。



「カンナちん?」



不思議そうに身体を屈めて私を下から見上げる紫原くん。ちちち近いってば…っ、と思いながら、顔を背ける。そして、意を決して告げた。



「む、紫原くんごめん。き、今日お菓子作れなくてっ、持ってきて、ないの」

「アララ?ホントに〜?まぁ、いいよ〜。待っててくれたし。一緒に帰れるし」



返ってきたのはあまりにも意外な言葉、で。私は呆気にとられたというか不思議なものを見たような目で紫原くんを見た。



「え、許してくれる、の…?」



すると紫原くんは、大きな身体をもとに戻して、言ったじゃん、カンナちんが待っててくれたからいいって、とまた同じことを言う。嬉しさと、嘘をついた申し訳なさとでぐしゃぐしゃになった。



「ほら、帰ろ」



紫原くんが私の手を引く。力の強い彼に引かれて少しよろめく。氷室先輩の、明日は午後練だからなー!という声が聞こえた。



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