征十郎が歩き出した。その方向は駅かな?



「征十郎、どこへ?」

「どこって、水族館だろう?」



後ろをついていく私からは顔は見えないが、至って普通の声だ。いや、そう見せかけているだけかも知れないが。



「征十郎くん、そんなに気に食わないかい?」

「僕が何を気に食わないって言うんだ?カンナ」



どこか芝居じみたこのやり取りも、終わりが近付いているようだ。先を歩いていた征十郎が振り向いた。少し残念にも思えるが、折角のオフに征十郎をずっとからかうのも申し訳ない。もう終わりにしようかと畳み掛けた。



「全てにおいて勝者である君が、彼女である私より背が低いことがそんなに気に食わないかい?私は愉しくて仕様がないよ。君の歪んだ顔が見られるのはベッドの中と、こうして君が私に負けた時だけだからね。期末テストや模試の時の、勝ち誇った顔ももちろん好きではあるけども、ね」



さも、おかしくてたまらない、といった風に言い放つ私を、征十郎は真っ直ぐに見ている。そして、ため息を吐きつつこう言うのだ。



「それくらいで満足していただけると助かるよお姫様。楽しかったかい?僕が君にひれ伏す様は。僕は君が楽しければ、何でもしよう。君が、跪いた僕が見たいと言うなら今すぐにでもしてみせるよ」



街のど真ん中で言い切った征十郎を少し近付いて見下ろして、私は言う。



「だから大好きよ征十郎。跪いたあなたになんか興味はないわ。いつでも上に君臨するあなたが好きなんだから」



今度は心から、征十郎が微笑んでくれた。この顔も、勝ち誇った顔も、屈辱に歪む顔も私だけのモノだと思うと身体の芯がぞくりと粟立つようだった。



「じゃあ、折角の休みだから、デートしようか、カンナ」





むしろ愛の確認

(あ、ここでちょっと待ってて)
(?どうした?)
(靴、買ってくる)
(…あぁ、そう)



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