Vanguard | ナノ

 act.1

( I hope you'll be happy. )




朝の会議が終わり、ご苦労様の声とともにその場にいた各団長が部屋から出ていく。全員が扉の向こうに消えて行くのを眺めてから、ガルモールは円卓に目を移した。
そこには、以前なら真っ先に部屋を後にしていた赤獅子団の団長が、一時間ほど前に席についた時とほぼ同じ格好でいた。

赤獅子団長であるエイゼルがおかしくなったのは、五日前の誘拐事件が原因だった。
五日前、街で無防備にうろついていたエイゼルは街でも有力なゴロツキの集団に誘拐された。
白兎の少年兵たちがそれを目撃し、ガルモールがすぐに助けに言った事もあり大事にはならなかった。だが、問題は偶然その場に居合わせたゴロツキたちの頭目ーバグデマグスの行動だった。
後にエイゼルから聞いたが、主犯は彼ではなくその部下。バグデマグスはエイゼルが連れて行かれた小屋にただ寝ていただけらしい。だから彼はエイゼルに手を出す事はしなかった。むしろ自分の目を褒めてくれたのだと、エイゼルが顔を赤くしてそう言ったのを思い出してガルモールはため息を吐いた。

「エイゼル、会議終わったぞ」
「………」
「なぁエイゼル、今日は赤獅子団で訓練があるんだろ?皆きっと待ってる」
「………」

幾らかけても返って来ない声に、ガルモールは苦笑いを浮かべて隣の席に座って口を開く。

「…あのなエイゼル、あのイケメンな頭目のおにーさん…バグデマグスって言うらしいぞ」

突然のガルモールの言葉に、下を向いていたエイゼルが鋭い反応を示した。ガルモールを見る瞳は僅かに揺らぎ、何でとでも問うてるようだった。

「バレバレだよ。むしろ隠してた?」
「…いや…そうじゃないけど…」
「ずいぶん気になるみたいだね、彼の事」
「そんなんじゃない!ただ…」
「ただ…何?」

見透かしたようにガルモールが微笑むと、エイゼルはぐっと口を噤んだ。
あの日以来あの綺麗な赤い瞳が頭から離れないのは事実だった。口を開けた時に覗いた八重歯も不意に頭に置かれた大きな手も、何でか忘れられない。本当にほんの一瞬しか一緒にいなかったと言うのに、そんなにもエイゼルの思考は奪われていた。あの男ーバグデマグスに。

「っ、もう行く!…会議、全然聞いていなかったから後で纏めて教えてくれ」
「はいはい。了解しました」

自分の考えを整理する度に苛々は増し、何故だか心拍数は上がる。

いつも以上に落ち着かないのは全部アイツのせいなのか。

部屋から出て壁をガツンと蹴ったエイゼルの顔は、耳まで赤くなっていた。


一方会議室に一人残ったガルモールは、片付けがてら今後の事を考える。

エイゼルは村から一緒に飛び出してきた大切な人。昔から笑顔を見たくて沢山の事をしてきた。
彼女には幸せになってもらいたい。
それは昔から思ってきた事だ。

「でもねエイゼル…俺、ほんとはさ…」

ふっと微笑んで、ガルモールは立ち上がる。
エイゼルは嫌がるだろうが、最善の策はもう考えてある。明日にでも動き出そうかと考えを巡らせながら、ガルモールは手元の苦い紅茶を飲み干した。





( いつも、幸せを願ってる )




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