Vanguard | ナノ

 寂しがりな君へ

シルバー×ナイトストーム




背筋が凍るような夢を見た。
ハーフであるがために仲間から疎外され、ヴァンパイアであるがためにヒューマンに恐れられて屈辱的な暮らしをしていた頃の幼い自分。
ハーフヴァンパイアであるくらいなら死んだ方がマシだと、思っても死にきれずに唇を噛んだ惨めな自分の姿が、ナイトストームの脳裏に再び浮かんだ。

すぐ隣で赤い瞳を閉ざしている航海士を起こさないようにベッドから抜け出す。随分とうなされていたのか、休んだ筈の身体は怠く、喉は酷く渇いていた。首筋は汗ばみ気持ちが悪い。
こんな時、ナイトストームは外に出る事にしていた。きっと外はまだ明るい。ゴーストシップの乗組員で起きている者など、ほぼいないだろう。制約が甘い事は彼がハーフである事を知らしめる、忌むべき事実だ。けれど、ナイトストームはこの時だけは自分の身体をありがたく思う事にしていた。


未だ完璧ではない足取りで扉に手をかけようと手を伸ばしたその時だった。
ガクンと膝の力が抜けて視界がぐらつく。あ、と小さく声を漏らすと、そのまま後方に倒れることを覚悟してナイトストームは目を瞑った。が、痛みが訪れることは無く、代わりに身体が温かいものに包まれていることに気付く。我に返って目を開ければ視界の隅に見慣れた銀髪があって、ナイトストームはやっと口を開いた。

「シ、ルバー…」
「随分と私たちには早い煩い朝だな」

後ろから抱きしめられる体勢で受け止められ、彼らしい皮肉めいた言葉が耳元で囁かれる。それが無性にくすぐったくて、ナイトストームは小さな抵抗を示した。

「シルバー…起きてただろ」
「そりゃ、あんなにうなされてたら起きるさ」
「なんで…」
「ん?」
「なんで起こさなかった」
「起こして欲しかったのか?」

意地の悪い顔を浮かべて尋ねる航海士に、海賊団一の剣豪は不貞腐れたように俯いた。
普通うなされてたら起こす。
そう小さく呟くと、ナイトストームは優しい腕の縛りを振りほどいて立ち上がる。そしてそれに合わせて立ち上がったシルバーに、ぐいと攻め寄った。

「普通…人がうなされてたら起こすだろうが」
「私はうなされてるお前すら美しく見えてね。美しいものは見ていたいんだ」
「は?何だそれ…意味分かんねぇ」
「だいたい、私はお前がそんな悪夢を見る理由をまだ教えてもらっていない」

そう言うと、シルバーはナイトストームの腕を掴んで身体を反転させた。そのままナイトストームをベッドに押し倒す。

「そろそろ教えてくれても良いんじゃないのか?」

再び耳元に低い吐息混じりの声が響く。それに頬を紅潮させながら、ナイトストームは悔しそうに眉根を寄せた。

「シルバーに…話したい事じゃない」
「そればっかりだな、お前は」
「お前は話せ話せと随分しつこいじゃないか。…答えなんて知ってる癖に」
「私はこう見えてちゃんと心配しているんだ」
「放っておいてくれ。シルバーには関係ない」

言って、ナイトストームは顔を背けた。
シルバーは美しいものは好きだ。
それを脳裏で反芻するたびに、ナイトストームは昔の自分の姿を思い出す。綺麗、なんて言葉は程遠い薄汚れた姿。
シルバーがそんな昔のものを気にしないであろう事は、容易に想像がつく。美しいもの好きのこの航海士は、今を見ている。更に言うなら今しか見ていない。刹那主義なのだ。どうせ。美しいままの自分の姿を留めようとヴァンパイアになったくらいに。

「シルバーは…俺の事好きなのか?」「何をいきなり…」
「良いから…答えろよ…」

先ほどから話が纏まっていない。
そんな呟きは素直に飲み込む事にして、シルバーはナイトストームの前髪をかきあげた。同時にびくっと肩を震わせた気の弱い想い人に苦笑しながら、露わとなった額に優しく口付ける。

「当たり前だ。やはりお前は馬鹿なのか?」
「なっ…」
「ナイトストーム」

人を小馬鹿にした言い方に言い返そうと、口を開きかけた愛しいハーフヴァンパイアの顔をシルバーは覗きこんだ。口と口が触れ合いそうな距離に、ナイトストームは顔を反らそうとする。が、それはシルバーの長い綺麗な指に顎を捕まれて阻止されてしまった。
航海士の綺麗な赤い瞳は、ナイトストームの身体を固まらせるのには十分だった。

「お前が愛してるの言葉ひとつで足りないのなら他にもたくさん捧げよう。お前の不安を取り除くには…愛してる以外に何が必要だ?」

いつもより明らかに低い声でそう言われて、ナイトストームは目を反らす。
これだからシルバーは嫌だ。
縋ったら応えてくれて、きっと無自覚の内だろうが不安を払拭してくれる。それが余りにも優しい誘惑で、甘えたくなる。
いけない事じゃない。けどそうしたくないと思ってしまうのは、きっと己のつまらないプライド。いつかこの誘惑に何の迷いもなく誘われたら、きっと言う事だってできるだろう。悪夢を見た後に、一人で肩を震わせる事だって消えてるはずだ。

そう確信すると、ナイストストームはベッドに投げ出していた腕をシルバーの首に回した。

「お前が欲しい。言葉より何よりもお前だけが欲しいよ、俺は」

滅多に見る事のできない不器用な剣豪の甘えに、シルバーは勿論とだけ答え、再び額にキスを落とした。





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