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 太陽のうたた寝

エイゼル×ガルモールに見えるかも知れないエイゼルとガルモール





見るべき資料に目を通し対処すべき事件の対応策を考えて、一通りの仕事を終えたガルモールは、固まった背筋をピンと伸ばした。
英雄たち解放の兆しが垣間見えるようになってきて、ゴールドパラディンでは事件が増えてきていた。気が抜けたと言うのもあるだろうが、その為か団長であり騎士団のトップに近い場所に立つガルモールには仕事が増えた。

身体が程よくほぐれると、ガルモールは椅子から離れて窓に近付く。
今日は生憎の曇天で、一日中太陽は拝めれなかった。風はこれから来る冬に向けて冷たくなってきているし、こんな日に外に出る人は滅多にいなかった。のに…。

「あれ?」

ガルモールは少し離れた場所によく目立つ金色の輝きを見つけた。それは見紛うことなくエイゼルなのだが、いつもと雰囲気が違う気がした。
他人より五感どころか六感まで良いと言われるガルモールは、躊躇いもなく部屋を飛び出す。
いつも偉そうにしている赤獅子の団長の視線の先が、彼にはどうも突っかかったのだ。






「エイゼル!」

それなりに冷たい風に吹かれるエイゼルは団服のみと言う軽装で、どこか遠くを見ていた。そんな彼に何の躊躇いもなくガルモールが声をかけると、エイゼルがふわりと振り向いた。

「ガルモール…どうかしたか?」
「いや特に何も。ただエイゼルが見えたから来ただけ」
「そうか…」

そう言うとエイゼルは再び顔を前に戻す。
肌に痛みを伴う冷たい風が二人の長い髪を薙いだ。曇天の空は相変わらずの暗さを保っている。風に身震いをしたガルモールを、エイゼルはちらりと見て口を開いた。

「ガルモール、外は冷える。風邪をひくぞ」
「そうだね。今日は特に寒いし」
「だからもう中に入れ。お前が体調を崩したら駄目だろう」

当然の事のようにそう言ってのけたエイゼルに、ガルモールは不満そうに口を尖らせる。

「何で俺だけ調子悪くしたらいけないんだ?…エイゼルこそ…今ゴールドパラディンに一番大切な人が誰か自覚しなよ」

仕草はどうも子ども臭さがあるものの、言ってる事だけは正論染みていてエイゼルは完全にガルモールへと視線を移す。
エイゼルは欠かせない人なんだからと呟くガルモールはエイゼルの目には楽しそうに見えて、エイゼルは不思議そうにガルモールの髪に触れる。
良く手入れされている紅茶色の長い髪はエイゼルの手からさらさらと流れ、それを横目にガルモールが騎士とは言えないようなきょとんとした表情を見せた。

「エイゼル?どうかしたか?」
「…ガルモールは…不安にはならないか?」

エイゼルの紡いだ思いがけない言葉に、ガルモールは僅かに瞳を大きくした。

「エイゼルは…不安になるの?」
「不安と言うか…何とも言い難い気持ちにはなるな。ガルモールには…ないのか?」

綺麗な金色の瞳はいつになく揺らいでいて、ガルモールは少し困ったようにしてから答えた。髪は未だ弄られたままだが、最早それに慣れているガルモールは気にはしない。

「それくらい俺にもたまにあるよ。ただ、それを表に出すのが嫌なだけ」
「嫌…?」
「ほら、俺は仮にもこの騎士団を作った一人だし。…皆が心配になるような事は見せたくないんだ」

そう言ってガルモールは頬を染め、はにかんだ笑みを見せた。
すると髪を弄っていたエイゼルの手の動きは止まり、眩しいものを見るように目を細めた。

「それで…ガルモールは無理をしてないのか?つらくはないのか?」
「大丈夫。ブラスター・ブレードが解放されれば、皆元気になる。皆戻って来る。騎士王だって盟友にお会いできたら、この国は再び光へ動き出すだろう。今度はシャドウパラディンの皆とも一緒に」

そう言うガルモールの瞳は強い光を伴い、鋭くエイゼルを射ぬいた。
かの騎士王までとはいかなくても良い。ただ、混乱の中にある国を前に進めたい。世界は絶望になんか満ちていないのだと、皆に教えてやりたい。光は見ようとしなければ見れない。絶望から僅かに漏れる希望を見つけようとはしない限り、希望なんて抱けないのだと教えたい。

「また皆と笑いながら過ごす事ができるなら、少しの苦悩は苦悩じゃない」

最後にそう付け足すと、ガルモールは首に巻いていたマフラーをエイゼルの首に回して頭を近付けた。そしてマフラーの両端をひっぱったまま、おでことおでこをこつんとぶつける。

「エイゼルはさ、俺みたいにならなくても良いんだ。エイゼルは光なんだから」
「けどお前にばかり大変な思いはさすがに…」
「大丈夫。エイゼルからも元気はもらってる。ただエイゼルの笑う姿も見たいかな」
「笑う?」
「エイゼルさ、最近は少しがんばりすぎだよ。魂昇華させて、ただでさえ大変なのに。…変な事は考えないで。俺たちなら大丈夫。きっと大丈夫だ」

そう言って、ガルモールは頭を離して身体を翻す。ロイヤルパラディンの頃から切っていないと言っていた髪が、風に遊ばれて舞った。

「風邪、ひかない程度に部屋に入れよ?エイゼルが風邪ひいたら俺が困るんだ」

優しい声と、滅多にかけられる事のない事のない言葉にエイゼルは返す言葉のないままその背を見送った。

ありがとう。

紡ぐ前に姿を消した本来の光るべき存在に、エイゼルは目を閉じる。マフラーの暖かさを確かめて、エイゼルはありがとうと小さく呟いた。




fin.




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