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 好きだと思い知らされる

エイゼル×ガルモール





赤獅子団は気性の荒い、好戦的な人たちが多い。攻撃に特化しているのは誰から見ても分かることだし、結果ゴールドパラディン7団の中で一番の戦果を上げている。
けれど、だから。だから戦へ赴く回数も一番多いし、死地に直面するのだってよくあること。

今回だってそうだ。
本来なら今回は銀狼団が行くはずだった戦場。けれど戦いたいと願い出る赤獅子団の面子と、他の誰かが行きたいと言うなら辞退しても言いと言った銀狼団。結局俺がどんな判断をしたか、なんて分かりきったものだった。




「それじゃあ行ってくる」

装備をしっかり整えて、エイゼルが何でもないことのようにさらりと言った。いつもではあるけれど、エイゼルは戦いにかなりの自信を持っている。それはエイゼル自身が強いと言う事実と、主従に関して他の団を抜いて強い絆をが存在するからだろう。

だからか、エイゼルは戦場に行くときも少し気分転換で街へ行くときも同じ抑揚で「行ってくる」と言う。

「…きっと俺がどんな気持ちでいるかも分からないんだろうね」

無意識にポツリと呟いたその言葉はかろうじてエイゼルに届いたのか、一度は背を向けたエイゼルが動きを止めた。

「エイゼル?」

不審に思って首を傾げれば、冷たい風に吹かれていた俺の身体が温かいものに包まれた。それが何かを解するのにさして時間はかからなかったけど、さすがに慌てた。エイゼルの厚い胸板を押し返すくらいには。

「エイゼル!何してんだよ、離せったら…」
「すまないガルモール」

いつも通りと化してしまったやり取りをすれば、突然頭上から謝罪の言葉がふってきて俺は顔を上げた。
いつもは自信に満ち、鋭い光を放っている綺麗な金色の瞳が揺らいでいる。

「エイゼル…」
「俺が…いつも何も思ってないと思うのか?」
「…………」
「本当は行きたくないときだってある。けれど俺も団長だからな。あいつらの意思を尊重してやりたいんだ」
「それは…分かるけど…」

エイゼルの言うことは同じ団長として理解できる。エイゼルは団長を心から慕う赤獅子団の、その団長だ。俺の意思を尊重してもらえるほど余裕はないだろう。

「俺の気持ちもまた、お前は分かっていないだろう?」

言葉を濁して俯いていれば、やっぱり平然とした口調のエイゼルが言った。

「俺だってお前と同じ…何ら変わりない人だ。もちろん赤獅子団の奴らも。不安だって恐怖だって感じる」
「…うん」
「第一ガルモール…俺だって今は不安でいっぱいいっぱいだ。元気で帰って再びお前とこうして温もりを確かめあえると言う保証もない」
「うん…」
「けど行くしかないんだ。聖騎士団のときのような生活を取り戻したいんだろう?」

的確で心を射るような言葉が、いちいち痛い。確かにそうなんだ。そうなんだけど…待ってる方だって不安や恐怖と戦わないといけないことを、俺ほど理解してる人も少ないと思うわけで。
けど、これ以上文句を並べても仕方ない。項垂れているエイゼルの額に、俺の額をこつんとあてる。

「帰りを…待ってるから。行ってらっしゃい。エイゼル」

一拍置いてからエイゼルが金の瞳を閉ざす。俺もそれに合わせて目を閉じれば、体温で感じる心強い存在に安心する。

「ああ。早く…帰る」

言葉少なにエイゼルはそう言って、俺をもう一度だけ抱きしめた。








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