Vanguard | ナノ

 指先に忠誠を

エイゼル×ガルモール





ドラゴンエンパイアとの一戦を終えて、綺麗に輝いていた夕日も姿を消そうとしていた。濃い群青はもう空の半分以上を侵食し、夜の帳(とばり)が降りはじめる。

辺りの景色がだんだんと見えなくなってくる中で、ガルモールはため息を吐いた。

封印された英雄たちを助けるために。
そう意気込んで創立した“ゴールドパラディン”。かつては敵だったルーカンの協力。もともとの騎士王の人望。いろんなものが相まって、ゴールドパラディンは意外にも早く創立された。
今は英雄解放に向けて皆が必死になってがんばってるわけで、現状としては前向きで良いのだろう。けれど、ガルモールには未だ分からないことがあった。
何故、騎士王は自分に纏め役を任せたのか。
別に、特別これと言って騎士王と近しかったわけでもない。むしろ別々で戦うことの方が絶対的に多かった。それなのに、どうして。

最近の戦で、ガルモールは自信と言うものをすっかり無くしてしまった。特にこれと言った理由は分からない。それでも不安になる。“ゴールドパラディン”に自分は必要なのだろうか。
統率力だったらペリノアには尊敬するものがあるし、エイゼルに至っては統率力も戦闘力も確実に自分の上を行っていると思うのだ。銀狼の鎧が自分を選んでくれたことはすごく嬉しい。今は纏っていないあの鎧は、確かにしっくりきて離れない。
けれど、たまに襲い来る漠然とした不安に押し潰されそうになる。


一瞬、ガルモールの長い髪が一陣の風に弄ばれる。それとガルモールがその場にしゃがみこんだのはほぼ同時だった。

「っ、く…」

かすかに嗚咽がもれる。情けないと素直に思う。どうしてこんなにネガティブになるのかも、どうして心が痛いくらいに不安に襲われるのかも、分からなかった。ただ、少し心当たりがあるのなら、焦り。英雄を解放しなきゃいけない、と言う焦りだろう。

ふと、凪いでいた風が頬を撫でた。背後でぱたんと音がして、ガルモールは勢いよく立ち上がる。誰だか大体の察しはついた。けれど、決して見られたい状態ではない。

「ガルモール…」
「エイゼル…ど、して…」

強引に涙を拭き取るガルモールに、エイゼルはつかつかと近寄る。
絶対に隠せるわけもないのに。
エイゼルは平淡な表情を浮かべながら、すっかり冷えたガルモールの身体を腕の中に収めた。

「えっ、エイゼル?」

慌てたようなガルモールの言葉を無視して、エイゼルは腕にこめる力を強める。

「また…何か一人で悩んでいたのか?」
「…別に…悩んでたわけじゃ…」
「嘘だな。それなら顔見て言ってみろガルモール」

そう言って、エイゼルが身体を少し離してガルモールの顔を覗きこむ。が、ガルモールはすぐさま顔を俯かせてそれから逃げる。

「…………」
「…あのなぁ、お前が何も言わない限り、俺も何も言わないぞ」
「…………」
「何があったかは良く知らないが、ひとつ言っておく」

黙り続けるガルモールをもう一度抱きしめながら、身体と同様に冷えた手を口の近くまで持ってくる。

「お前がどんなことを思ってどんなに悩んでも、俺はお前の味方だ」
「っ!けっ、けど…」
「けど?その先は言わせない。お前がどう思っていようと決定事項だ」
「エイゼル…」

握られた手がさらに口もとに寄せられ、ガルモールの身体がわずかに強ばる。それにニヤリと不敵な笑みを浮かべ、エイゼルが言葉を続けた。

「俺は…お前のものだから…ガルモール」
「!」
「何があっても近くにいる。だからお前は俺を呼べ。一人で泣くなんて許さない」

その言葉の終わりに、エイゼルがガルモールの指先に優しく触れるキスをする。主従がするような忠誠心を示すキスじゃない。けれど、それは確かにガルモールが必要をしていたもの。

「エイゼルの馬鹿…」
「どうしてそうなる…」
「もっと早く言ってくれてたら…泣かずに済んだ…」
「…俺もお前が言ってくれれば泣かさずに済んだ」
「…ああ言えばこう言う」
「お前もな」
「…………」

そんな幼稚なやり取りをした後に、エイゼルは再三ガルモールを抱きしめた。願わくは、この強さと優しさをあわせ持った愛しい人が、二度と一人で泣くことのないようにと。




たった一人の従者でも良いと思うくらいに。







おいお前ら誰だ。
とりあえず伝えたいことは赤獅子銀狼ふえろ。





prev|next

back

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -