Vanguard | ナノ

 青に溺れてしまいそう

レオンくんが特別な力もってる。
つまり捏造。





苦しい。

吸い込まれる。


いや、違う。

吸い込まれた。


息ができない。苦しい。

どうにか助かろうともがいても身体は言うことを聞かずに沈んでいく。

海の中。

そうだ。ここは海の中だ。
だから苦しい。そして落ち着く。

ふ、ともがくのを止めて、潮の流れに身体を任せてみる。死ぬ可能性は大いにある。けれどそれでもいい、なんて頭の隅で考えた。







次に目を開けると、近頃はもう見慣れた天井があった。
身体を起こさなくても、顔を動かさなくても、ここはどこで誰がいるかも分かる。

「アルゴス」

ゆっくりと口を開いて、呼び慣れた名前を呼ぶ。現実世界にはいるはずのない名前。
けれどその呼びかけに答える声が、いつものように返ってきた。

「坊っちゃん!目が覚めましたか」
「アルゴス、坊っちゃんじゃない。ところで…またか…?」
「…はい。今日は海中でドロテアが見つけました」
「そうか…。…後で礼を言っておかないとな」

それなりの会話を交わして、やっと起き上がる。

やっぱり。

まるで軍隊の治療班でもいそうなその場所はその通り、海軍の治療室。さらに詳しく言うと、イメージの世界であるはずの惑星クレイの、である。

「レオン様…」
「アルゴス外に出る。……皆に会いたい」
「…はい」

アルゴスが何か言いたげにしていたのは胸の痛みと一緒に無視した。アルゴスが何を言いたいか、自分の胸が何を訴えてるかなんて、もうとっくに理解している。
だから今さら聞かなくても…いちいち感傷に浸らなくてもいい。分かってるんだ。理解しようとしないだけで。


治療室を出て無機質な廊下を歩く。もう随分と歩きなれた場所だ。それはそれで、どうかと思うのだが。

「レオン様、体調は大丈夫なんですか?」
「平気だ」
「けれどここに来るときはいつも体調が悪いと…」
「今回は大丈夫だ」
「しかし…」
「くどいぞアルゴス。平気だと言っている」

アルゴスは優しい。優しいからこそ、今回は少し嫌になる。今はすごく機嫌が悪い。自分でも分かるほどに。
アルゴスもそれを察してくれたのか、先ほどと同じように黙りこんだ。


無言のまま外に出れば、清々しい風が頬を撫でた。軽い、落ち着いた空気。

「皆は…いるか?」
「はい。レオン様が来たと知り、皆集まって来ました」
「…海軍がそれで良いのか?」
「皆レオン様が心配なのです。そんなこと仰らずに…」

苦笑気味にアルゴスはそう答えて、俺の半歩先を歩いた。
俺の機嫌が悪いと知ると、次の瞬間にはもう俺から離れていく。一番無難な行動を取る奴だ。本当に。何にしても。


重いドアをアルゴスが開ければ、爽やかな風が頬を撫でる。
と同時に、やたらと元気な、その中に心配を含んだ声が俺の名前を呼んだ。

「皆…」
「レオン様!」
「レオン様体調は平気なんですか?」
「今度は海中に漂ってたと聞いて心配したんですよ?」

次々とかけられる声についていけず、思わずぽかんとした顔になる。が、そこにドロテアの姿を認めると、俺は首を軽く振って自分を取り戻す。

「平気だ。心配ない。それからドロテア」
「はい」
「お前が助けてくれたそうだな。感謝する」
「はい。ご無事で何よりでしたマイヴァンガード」

この場限りの彼女らしい抑揚を抑えた声がその場に凛と響いた。続けて短く会釈するドロテアに頷いてみせてから、アルゴスと共に皆に近寄る。
“視察”の始まりだ。





日が、暮れようとしていた。
眩しい朱色の光源が、半分まで海に飲まれる。あの光源を太陽と称していいものかと悩むのも馬鹿らしい。ここに来てしまったら、何も考えないのが一番だと、俺はよく知っている。

「レオン様、冷えますよ」
「平気だ」
「レオン様…」
「アルゴス」

何かを言いかけたアルゴスを再び遮って名前を呼ぶ。アルゴスはわずかに眉根を寄せてから、はいとだけ答える。

「…ここは良いな」
「は?」
「お前たちと過ごす時間は本当に楽しい」
「レオン様…」
「何も…考えずに済む」
「しかしそれでは…」
「分かっている。使命は果たす。お前たちのためにも」

そう言って振り返ると、身体が軽くなるのを感じた。俺を映していたアルゴスの瞳が、わずかに揺らぐ。

「時間か…」
「レオン様…」
「アルゴス」

俺が今回クレイにきて、すでに五回ほどを数えるやりとりをして、アルゴスを正面から見た。

「何回そんな顔をしながら俺の名前を呼ぶ気だ?」
「………」
「今度は黙るのか…」
「っ、レオン様!」
「言いたいことは分かってる。けど今しっかりしないといけないんだ」
「先導アイチ…ですか?」
「さあな。詰まるところ気がするだけだ」

光に包まれる手のひらを眺めながらそう答えれば、アルゴスは諦めたような中途半端な笑みを浮かべた。

「無理は…なさらないでください」
「ああ。心がける」
「私たちはいつでも…お迎えしますから」
「ああ」

きっとこの幸せな夢から目を覚ました時、きっと後悔するんだろうと覚悟しながら俺は口を閉ざす。言いたいのはこんなことじゃない。他にも沢山ある。けれど、泣き言を言えばアルゴスを…皆を困らせることになるだろう。
今はまだ大丈夫。消えたいくらいつらいわけじゃない。疲れ果てて足が動かないわけじゃないんだ。
それでも心の支えはないといけない。不安に押し潰される前に。だから…


「…頼りにしてるぞ。アルゴス」
「…はい。マイヴァンガード」

消える直前に伝えた本心の奥を、アイツはきっと、理解してくれただろう。







信じられるか?この話アルレオになるはずだったんだぜ?


つまりレオンくんは現実世界で眠っているときに、クレイに行っちゃうときがあるんだって話。
ユニット書きたかっただけとも言うのだ。






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