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ワンナイト・アフター


ふわふわと揺蕩っていた意識が、不意に浮上していく。
何時だっけ……9時……って遅刻じゃん!!!
一気に覚醒した身体を跳ねて飛び起きる。

「やば……ッ!!?」
叫ぶ、と同時に脳に走る鈍い痛み。いやそれどころじゃない。仕事に遅れる、あれ、なんで、私、服を着てない?

「ンだよギャーギャーうるせえなあ……」
枕元から聞こえた低い声は、低血圧な自分のものではなくて、声の発生元を見る。
「今日休みだっつったろ…寝とけ寝とけ……」
「な……!?」
引かれた腕を振り払い、咄嗟にその場から離れる。

私が抜け落ちたシーツからは、水色の髪とやや筋肉のついた肢体。おまけにハート柄のパンツが覗いていて。

「ひああああ!!!!!!」

私は齢2Xにしてあまりに情けない悲鳴をあげる羽目になったのだった。

「あのなぁ…俺はテメーに連れ込まれてこのホテルに入ったんだけど?」
「知らない……」
「あんだけ酔ってりゃそうなるってーの。」
「うっ」

酔っていた。そう、それは事実だと思う。
5年間付き合った彼氏に別れを持ち出され、落ち込んだメンタルのまま一日働き、ミスして叱られ残業。
ーー精神はもう限界だった。
ふらりと寄った居酒屋で浴びるほど酒を飲んだ。ビールにワイン、ウィスキー、梅酒、日本酒……。どれが悪かったのか、もう覚えてないけど、とにかく泥酔したのだ。
挙句に路上で吐き散らかした私はどうやらこの青年…高田馬場ジョージくんに介抱され、勢いのまま“私が”ホテルに連れ込み一夜を共にした、ということらしい。

「とりあえず上着ろ」
「あっ」
バサリと投げつけられたのは、ホテル備え付けのバスローブ。
「ありがとう…」

高田馬場ジョージ……それは私も知る名前だった。名門校シュワルツローズの超人気プリズムスタァ。女に手を出すまでの速さは芸能界随一で、事あるごとに口説いているとか。
でも私の知る高田馬場ジョージはこう、媚びっぽいっていうか……、こんな乱雑な口調だったんだ。

かくん、突然膝から力が抜ける。
「あれ?」
へたり込んだまま動けない私を、ベッドに寝転がって見下ろす高田馬場ジョージは呆れたような表情をした。

「あんだけ激しくヤってまだ動けてる方がおかしいだろ」
「ヤっ」て。
やっぱり、シたのか。この男と……。
開いた胸元には鬱血痕。ベッドのサイドテーブルには0.01の印字のされた箱と、ゴミがいくつか。
間違いなくこれは……。

不意に鳴り響くメロディー。確か、法月仁のマイソング…?
「!!はぁい法月そーすいっ」
あっ、いつもの高田馬場ジョージの声だ。
電話の相手は彼の呼んだ通りの人物らしく、終始媚びた声で応対している。
「はい勿論ですぅ〜ではジョージ、失礼致しまジョイっ☆」
なんだその挨拶。

通話の終了音とともに訪れたのは何とも気分の良くない沈黙だった。
「……。」
「……。」
「…誰にも言うんじゃねえぞ」
「な、なにが」
また戻った低い声に肩が跳ねる。
「俺がキャラ作ってるとか、セックスしたこととか。」
「言ったって信じる方が少ないわよ…」

特に後者は。そう言えば高田馬場ジョージはフーン、と生返事で鼻をほじりだした。アイドルとは……?
高田馬場ジョージがこれなんだから、あの速水ヒロなんかも口が悪かったりするのかな。それは……ちょっと嫌だなあ…。

それからは特にこれと言った会話はなく二人バラバラにホテルを出た。
ロマンもへったくれもない、一人の朝帰り。
何で彼は私を抱いたんだか。そんな事を考えるとまた頭と腰が痛くなった。
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