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伏見くんの秘密


ふと思い出して開いた学生鞄の中に、明日までに提出する英語の課題が入っていないことに気付いて戻った教室。の、前。
(…あれは、伏見くん?)
秋の夕陽で真っ赤に染まった教室。そこに一人佇むクラスメイトの伏見くん、らしき人。
らしい、というのも、陽気で気さくな彼と違う雰囲気をまとっていたから、私はその場から動けなくて。

ー多分、見惚れていたんだと思う。

明るい茶髪が、キツネ色に染め上げられて。
目元もどこか、つり上がって。
目尻には影か、それとも朱が入っているのか。
いつも跳ねているサイドの髪は、まるで耳のように立っている。
そして腰から伸びているのは、……尾…?

はっ、と息を呑む音が、恐ろしいくらい静かな廊下に響いてしまったのかもしれない。
バッチリ合ったその目は金色に光っている。
「伏見、くん?」
「見られちゃったかあ」
妙に間延びした声色に、身体が強ばった。
ーー見てはいけないものを、見てしまった。

そう気付いた時にはもう遅く、伏見くんは私に近づくと、背筋を伝う汗が見えるかのようにキツネ色の尾で背中を一度撫ぜた。
「なあ、みょうじさん」
「な、何……」
死ぬ前に何か言うことは?
死にたくないです。→ダメです。 -GAME OVER-
脳内シミュレートがバッドエンドに突っ走る。いやだ、死にたくない…死にたくない…
「俺、正体見られたら、その人と結婚しなきゃいけないんだ」
「………は?」

「ちなみに拒否したら、食わなきゃいけないっす!」
「アッッッ死にたくないです!!!」
ぴょんと立った耳は間違いなく狐のソレで。
「じゃっ、決まりっす!俺たち結婚!」
「は?」

クラスメイトのトンデモ正体を見てしまったら、結婚することになりました。
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