小説 | ナノ


Fall with You.



「花吐き病、ねぇ」
親友の部屋で、私はティーン向け雑誌をまた一ページ捲る。

妖怪のルーツをご存知だろうか。
簡単に言えばあるはずのない存在の妄想を、本当だと信じ込むようになった事からだ。
今日世間を騒がせている『花吐き病』もそういった経緯で生まれた感染症である。初めは架空の病気であったそれが、病気の名称のみが一人歩きし、本当に存在してしまった。

親友である幼馴染は冬美旬という。
男で、しかも最近売れ出したばかりのアイドル。今日はちょっとしたドッキリにこの親友を巻き込んでみようという魂胆だ。
「ね、旬」
「…何?」
冬美旬。それが幼馴染の名前だ。
High×Jokerというアイドルグループのキーボード担当。
「旬は花吐いたことある?」
「あるわけ無いだろ。大体今は…アイドル何だからそういう話はご法度だし」
最初はぶつくさ言っていたのに、最近は活動に真剣に向き合うようになった彼を微笑ましく思う。さて。と、私の中の悪魔が嗤った。
「…じゃあ、これどういうこと?」
かさり、自分の手のひらに近所で咲いていた白いツツジを転がす。
また、悪魔が高い声で嗤った。
が、すぐにその声は消え去る。
旬の顔が青ざめた。
「何で」
震えた声。冗談のつもりだったのに。どうしてそんな顔。
「それに、触って、なんで」
「旬?これは、偽物で……ッ旬!」
ごほっ
顔を真っ青にした旬が倒れかかる。
私はとっさに支えたが、その勢いだったのか旬の口から、赤の、黄色の、白の、色とりどりの花が溢れ出した。
「何で……」
ああ、私が持っていたのはどの花だったか。
手に溢れる程の美しい花と、その強い香りに目眩がして。
私は小さな咳とともにライラックの花をぽろりと溢した。