小説 | ナノ


初恋の色



あ、まただ。

渋谷の街頭ビジョンの一つに、真っ赤な景色が映る。
眩しいキラキラ煌めく赤色のステージ。
その中で、私の幼馴染は楽しそうに笑っていた。

「あ、ハイジョーカーじゃん。また特集組まれたんだー」
「…。」
友達の会話を横目に、道路脇の柵にもたれかかりながらぼんやりと広告を見ている。
「ハヤトくんだっけ?なまえの幼馴染って」
「んー、まあ…。」
「まあって何よ〜」
「小学生以来会ってないし…」
「でも小さい頃の事知ってるんでしょー!いいなあーアタシもナツキくんの小さい頃とか知りたーい!」
「そう?」
私は中学に上がると同時に、東京に引っ越すことになった。だから彼とはそれっきりだ。
けど、記憶の中の隼人は今とあんまり変わってない気がする。
きらきらした目とか、無邪気に笑うとことか、照れると真っ赤になるとことか。
言ってしまえば、彼は私の初恋だった。

「あ、やばっ」
「え。何?」
「アタシこの後バイトだった!ごめん先帰る!」
「マジか。気を付けてねー」
慌てて荷物を抱えダッシュする友達にひらひらと手を振り、もう一度街頭ビジョンに目を向ける。そこにもう彼は映っていなかった。

一人ですることもないので帰ろうと電車に乗り込む。ミュージックプレイヤーをいじっていると、目の前に誰かが立った。
「…なまえ?」
「え」
「あっやっぱり、なまえだ」
「隼人…!?」
落としてしまったイヤホンからは、目の前の彼の歌が大音量で流れ出す。
周囲の視線と、顔に熱が集中するのを感じ、次の駅に着いた瞬間電車を降りた。

幸いにも人があまり降りない駅のようで、ホームのベンチに腰を落ち着ける。
「…よく私だってわかったね」
「そうかな?あんまり変わってないって思ったから…」
「それ失礼じゃない?」
「ええっごめん…?」
「からかっただけ。そういう隼人はアイドルになってるなんて思ってなかった」
「あ。さっき聴いてたの…」
「うん、買ったよ」
「へへ、ありがと」
「…やっぱ、隼人も変わらないね」
屈託なく笑うその姿は、記憶の中の隼人と何も変わっていない。

「……あの、さ」
不意に隼人が俯いて、絞るように声を出した。
「…?」
「俺、その…」
まさか、と期待に胸が高鳴る。
「つ、次のライブ来てほしいから、連絡先教えて!」
「……いいよ」
「やったー!あっラインしてる?」
「うん、してる」
少しの落胆と、なおも残る淡い期待は私の初恋に再び火をともした。
だって、ステージのライトに照らされてもいないのにあなたの耳は赤かったから。