小説 | ナノ


飴玉みたい




「初めて会った時から思ってたけどさ」
ごろん、ごん。
ベッドで寝転がる彼女の額が、ベッドを背もたれにゲームに興じる俺の背中に激突した。
…ちょうど骨のあたりだったのか、低く呻く声が聞こえる。

「で、なんだよ」
なまえの頭を、空いた手で軽く叩いて答える。
「恭二の目が好きなんだよね」
「…前は顔が好きとか言ってなかったか」
「顔の中でもー、目が好きっていうかー…」
こっちまで気の抜けそうな力のない声で喋りながら、俺の頬を指先でくるくると触れている。遊ぶというよりは、何かを探すような触れ方だ。……まさか目を、探しているわけじゃないだろうな?
「ふゃめろ、ひゅうふうでひない」
「あー、でも鼻筋も好きだなあ」
指が鼻腔を掠める。
「おいなまえ、流石にそこはやめ…っ」
仮にもアイドルなのだ…いやアイドルでなくても鼻の穴に指を入れられるのは抵抗がある。
「ふふふ」
遊んでやがる。
「…。」
これ以上集中できる気もしないので、セーブ地点へ駆け戻り記録を済ませ、ゲーム本体の電源を落とす。
振り向けばニヤケ顔の彼女がいて。

「構ってほしいなら、言えばいいだろ」
「そんなことないよー?」
クスクスと笑う彼女の口を塞いでみる。
驚くかと思って目を薄く開けると、ゆっくりと委ねるように瞼を落とすのが見えて、そんな姿がたまらなく愛おしく感じた。
次第に深くなる口付けはワンルームを急速に熱していく。
気付けばベッドに乗り上げ、彼女を組み敷いていた。
「…ふふ」
「まだ、余裕あんのかよ」
「そろそろ限界だけどね」
彼女の瞳はまっすぐ俺の瞳を見ている。
「やっぱ、恭二の目、好きだよ」

煮詰めたジャムの中の崩れてしまいそうな果実のような、小雨の日の湖に映り込む朧月のような、恋に落ちて情欲に溶けた鷹城恭二のその両の目は、何より愛おしい。