小説 | ナノ


煌びやかな偽り




「なまえちゅわ〜ん」
「わ、カズオくん何しに来たの」

自宅の引き戸を開けて、軽薄な声が飛び込んできた。
ナチュラルな装飾の多い私の家には、正直不似合な人だ。

「カズオじゃなくてカケル!も〜〜いい加減覚えて〜!?」
「はいはい…で、わざわざうちに出向くなんてどうしたの?」
「ちょーーっとなまえちゃんに頼みたいことがあって!」
「はぁ…」
「お願いっ!」


*


「なーんで私なんだか…」
黒のオーガンジーにスワロフスキーがちりばめられたドレス。
一時間前に施されたばかりのオレンジとゴールドを基調としたメイクはまるで彼の女だと主張しているようだ。

「…実際、そういう体なんだけどさ…」
そう。今日は十王院財閥主催のパーティに参加することになった。
――十王院カズ…カケルの婚約者として。
対価は某ホテルのスイーツブッフェの招待状。今度レオくんとユキさんと行こう。

「なまえちゅわ〜ん着替え終わったかにゃ〜?」
「…終わったよ」
「おっ!?じゃあ開けちゃうね?」
自分で開けるから、と制止する間もなく更衣室のカーテンが開かれる。
そこには青いスーツを身にまとい、髪をオールバックに固めたカケルの姿があった。

「わ、かっこいいね」
「……。」
「カケルくん?」
「…は、あっ、うんうん!ありがとね!!」
「どうしたの、固まっちゃって…何か変だった?」
「いや…、あ〜〜……その、綺麗でつい、見とれちゃったっていうか…」
「……。」
あーもー、とか呻きながらしゃがみ込むのを呆然と見下ろす。
あのカケルくんが、私に見とれた?
「…あ、ありがと…」
私でもわかる高級ブランドのパンプスを履く。
このむずがゆさににやつく顔を、うつむいて隠せるように。