小説 | ナノ


闇夜に瞬くアルファルド



ネオンと紫煙、サイレンの音。今はもう寂れた町。
その一角にある崩壊したバーで彼は暮らしている。
「…いるなら入れ」
カウンターの前でこちらに背を向け立ったまま、振り向くことはない。
地を這うような低い声。けれど以前のようなピリピリとした緊張感はなく。

「ここを出るの?」
言われた通り、店内へ足を踏み入れる。ヒールの圧力に耐えきれず、やや厚めの色付きガラスがパキンと音を立てた。
「…ああ。」
「……そう」
「お前はどうするんだ」
「どうって」
確かに色々あって半年以上、この場所で彼と寝食を共にした。
私はシュワルツローズの一役員でしかないけど、シュワルツローズの優待を受けているはずの彼がどうしてここにいるのか直接聞くことはなかった。

と思っていたのも、昨日までの話。
昨晩行われたプリズムキングカップ。その招待券を彼からやや強引に渡され、会場へ赴くことになった。
そこで行われたのは十人十色のプリズムショー。
画面越しに見ることはあっても、直接見る機会などなかったそれは、私の心を強く揺さぶった。
今を時めく期待のプリズムスタァ、煌めきを教えてくれた赤色の子、人々の心を解き放つ勇者のショー、眩い光を纏って君臨した王者。
でも、何より私が驚いたのはアレクサンダーのショーだった。

チャラチャラしたショーが嫌いだと、全て潰すと言ってのけた彼は確かに会場を全壊にまで追いやった。
――けれど、観客には誰一人として傷を与えなかった。
あの爆撃の瞬間、彼が私たちの頭上に風を巻き起こし衝撃から守ったのを確かに見た。

貴方は確かに暴君の様に見える。けれど、誰かを傷つけたいわけじゃない。
ただ何よりも自由でありたいが故の獰猛さなのだと、勇者に憧れを抱き始めたその目をみて気づいた。

「…私は、ここにいるよ」
「……そうかよ」
「もしかして着いてきて欲しかった?」
「自惚れんな」

「いいか、何処にいようと俺の活躍が分かるようにしてやる」
だから、俺が此処へ戻ってくるまで待ってろ。

それだけ言うと、彼は私の横をすり抜け出て行ってしまった。
きっと、あっという間に成長してしまうんだろうな。それまで何をして待っていようか。
彼の好きなものでも用意していようか。ああ、楽しみだ!