26

旅をして様々な場所を訪れたが、ここは何もかもが別格だ。
その権威を示すような、荘厳で巨大な建物を見上げる。

「またここに来るはめになるとは思わなかったね」
「本当だね……」

ユウナの結婚式、そして捕縛された時のことを思い出す。
ここは皆にとっていい記憶のない場所だ。
さっさと用事をすませて立ち去りたいところだが、門衛達に銃をむけられてしまった。
無用な戦闘などしたくない。どう突破するかと思っていたところに思わぬ仲裁が入った。

「ユウナ様が反逆者だというのは、アルベド族の流したデマです!」

昨日付けで門衛の監督官を命じられたというシェリンダはそう言った。
シェリンダの命令で門衛達は釈然としない顔で銃をおろし、下がっていった。
怒るリュックをなだめながらマイカへの取次ぎを頼むと、シェリンダは快く引き受けてくれた。

「アルベドの流したデマって何さ……」
「気にするな。マイカもユウナに頼るしかないのだ」

アーロンが事もなげに言う。
そう。つまりはそういうことだ。
見事なまでの手のひら返しに呆れるが、寺院の内部が混乱を極めている今、ユウナの力が必要なのだ。



「……今更何を知ろうというのだ」

はやくシンを倒せばよかろう。裁判の間に現れたマイカは訝しげに言った。

「ユウナレスカにまみえ、究極召喚を得たのであろう」
「ユウナレスカに会ったけどさ」
「……私達で倒しました」
「なっ……」
「もはや召喚士とガードが究極召喚の犠牲になることはない」
「1000年の理を、消し去ったというのか」

マイカが信じられないと首をふる。唇が震え、皺の深く刻まれた顔がどんどん青ざめていく。

「この大たわけ者どもが!何をしたかわかっておるのか。シンを鎮めるただ一つの方法であったものを」
「ただ一つの方法なんて決めつけんなよ! 新しい方法、考えてる」
「そのような方法などありはせぬわ!」
「尻尾を巻いて異界に逃げるか」
「スピラの救いは失われた……もはや破滅はまぬがれえぬ。エボン=ジュが作り上げた死の螺旋に落ちゆくのみよ」
「なあ、エボン=ジュって……」
「ユウナレスカ様もおっしゃっていたわ」
「ちょっとじーさん!エボン=ジュってなんなのよ!」
「……死せる魂を寄せ集め、鎧に変えてまとうもの。その鎧こそシンに他ならぬ。シンはエボン=ジュを守る鎧。その鎧を打ち破る究極召喚をお前達が消し去った!誰も倒せぬ」

なぜ、なぜこのようなことに。わしはスピラの終焉を見とうない。
そう力なく呟くマイカとゆきの目が合った。
歌うことで力を発揮する、スピラに存在しない力を持ったゆき。
変わらないことを大事にしてきたマイカにとって、ゆきは異質な存在だった。
恨み、怒り、蔑み。そんな感情をこめた目で睨まれたゆきは、静かにマイカを見つめ返す。

「どれもこれも、あなたなりにスピラを最優先に考えてやってきた結果なんだとは思う。でも大勢の人が犠牲になったこと……ユウナを傷つけたこと、許さない」
「ゆき……」

ユウナが驚いた顔で見ている。

「夢は、私達が終わらせる」

ゆきがはっきりそう告げると、マイカは苦々しい表情をうかべながら消えていった。

「ふざけやがって!好き勝手ほざいて逃げやがった!」

憤慨するワッカのそばに祈り子がふわりと現れた。フードを目深にかぶった、あの少年だ。

「僕の部屋へ来て」

少年はユウナとティーダにそう告げると消えていった。
この状況を打開する方法を、きっと彼は知っている。
期待を胸に、皆が祈り子の間へ向かう。

「ゆき」

ゆきが最後に裁判の間を後にしようとした時、少年が再び現れた。

「……あ、さっきマイカに言ったことかな?」
「うん」

以前ガガゼトで少年に言われたことを思い出す。
ゆきはシンと干渉しあってこの世界に来た。
シンを倒したら、どちらの世界にもいられず消えてしまうかもしれないけれど。
シンを倒してほしい。夢を終わらせてほしい。
そう言われてから、ずっとその意味を考えていたのだ。

「シンを、エボン=ジュを倒す。それが夢が終わるということなんだね」
「うん。僕達祈り子は、夢を見ることをやめる」

夢が終わる。
それはユウナ達スピラの人々が待ちわびたシンのいない世界になるということ。
この世界を作り上げてきた何かが決定的に変わるということ。
少年の様子から察するに祈り子達も、きっと。

「ゆき。あの子達に力を貸してくれて、決意してくれてありがとう。……ごめんね」
「ううん。きみこそ、長い間お疲れ様」
「僕、君のこともなんとか守れたらって、そう思ってるんだ」
「ふふ、その気持ちだけで十分だよ。ありがとう」

優しい少年がふわりと宙へ消えていくのを見届け、リボンをきゅっと握った。
恐怖がないわけではない。
たとえ消えてしまうとしても、自分の思うがままに行動したい。
ゆきは強く踏み出し、裁判の間を後にした。


祈り子の間から戻ってきたユウナとティーダが、少年と話した内容を聞かせてくれた。
エボン=ジュは元々強い力を持った召喚士だった。今は善も悪もなく、ただ召喚を続けるだけの存在となり果てている。
エボン=ジュを倒す時には協力するから僕達を召喚して。少年はそう言ったのだという。
シンを倒さなければ、エボン=ジュのもとへたどりつけない。
マカラーニャ湖でシンは静かに祈り子の歌を聴いていた。歌を聞かせて誘い出して隙をつけば、あるいは。一行はその可能性に賭けることにした。
シェリンダにも協力してもらい、スピラ中の人々の歌声を届けよう。
人々の歌を先導するために、飛空艇にも仕掛けをほどこさなければ。
それぞれが忙しく動き出す。シンを倒せるかもしれない。皆の表情は一様に明るかった。



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