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大地が鳴動する。
激しい攻撃が一瞬やんだかと思えば、状態異常の魔法が襲ってくる。

「危ない!!」

魔力の高まりを感じて咄嗟に飛びずさると、衝撃とともに今まで立っていた場所がえぐれた。
あれが直撃していたらひとたまりもなかった。

「ゆき!」
「大丈夫!」

心配する仲間に応じながら体勢を立て直す。
一瞬も視線はそらせない。
ユウナレスカもまた、涼しい顔でこちらを見ている。

「なんて力……」

ユウナレスカの反応は早く、魔法を発動する暇もほとんどない。
どこか隙をつかなければ。
そうしないと勝ち目はない。

「はあッ!!」

身軽なティーダが攻撃を巧みにかわして躍り出る。
渾身の一撃をくらったユウナレスカが、体勢をくずした。

「やったか!?」
「……いや、まだだ!」

膝をついたユウナレスカの足元が、ぐにゃりと歪んだ。
現れたのは巨大な顔。
ぎょろぎょろと動く目は赤く光り、蛇のようにうねる髪の先についた顔が一斉にこちらを向く。
そのおぞましさにリュックがひきつった笑い声をあげた。

「……安らかな死を与えてあげようというのに」

ユウナレスカの悲し気な声が響く。
次の瞬間、ユウナの召喚したイフリートもろとも吹き飛ばされた。
地面に体を叩きつけられて、息がつまる。
衝撃で柱や床が崩れ、もうもうと土埃が舞う。

「げほっ、げほ」
「皆、大丈夫か!?」
「なんとか……」
「ちっ、化け物かよ……」

辛うじて致命傷はまぬがれたが、一行の消耗は激しく、怪我も目立つ。
ゆきも体を起こそうとして、痛みにうめき声を上げそうになった。
隣にいるユウナも、すぐには起き上がれないようだった。
皆、苦しそうな息をもらしている。

「……痛いでしょう」

ユウナレスカが眉をひそめてこちらを見下ろしている。
アーロンが、ユウナとゆきをかばうように立ちはだかった。
彼の怪我も決して軽傷とはいえない。

「苦しいでしょう」

今にも気を失いそうな痛みを振り払うように、ロッドを強く握って起き上がる。
ユウナレスカは強い。
でも、絶対に負けられない。
だって。

「なぜそうまでして抗うのです」


「……生きて、世界を変えたいからだよ」

ゆきがつぶやいた途端、不意に吹雪が巻き起こった。

「ゆき!」

皆の視線がゆきに集まる。
ゆきのロッドが煌めくと、吹雪の勢いが強まる。
この程度の攻撃でユウナレスカにダメージは与えられない。
それはゆきもわかっている。
だが、攻撃がやんだ今が好機だ。
吹雪が目くらましになっているうちに。
ゆきは、仲間を包むような方陣をイメージして息を吸い込んだ。
肺がずくりと痛みを訴える。

「(……大丈夫。勝てる)」

私だって、この旅を通して強くなった。
ゆきの歌声が高らかに響く。

「なんだぁ?!」
「すげえ、体が軽い!」

傷を癒し、身体機能が向上する力が込められた歌。
スピラには存在しない術に、ユウナレスカが動揺する。

「なんです、その力は」

ゆっくりと立ち上がったゆきが不敵な笑みをうかべる。

「世の中、不思議なことってたくさんあるものでしょう」
「……!」

無限の可能性が待っている。
究極召喚はいらない。
暗にそう言ったゆきを、ユウナレスカが憎々しげに睨む。

挑発に乗ったユウナレスカの攻撃がわずかに精彩を欠く。
ゆきの動きを封じようと魔法を放ってくるが、リボンが状態異常をはじいた。

「魔を灰塵となす激しき調べ……」

稲光にリュックが悲鳴をあげた。
ゆきが歌うと雷がいくつも落ち、焼けこげたにおいが立ち込める。
続けざまに繰り出した炎がユウナレスカをさらに襲う。
キャパオーバーだろうがなんだろうが、構うものか。
追随の手をゆるめたら皆、死ぬ。

ルールーがゆきにあわせるようにファイガを放ち、炎の勢いが増す。
ユウナレスカの金切り声が響き渡り、蛇の頭をもつ巨大な顔が苦痛に歪んだ。
ゆきがロッドをひるがえすと、炎の勢いがさらに強まり、あたりが熱に包まれた。
容赦のない猛攻に、髪の先についた頭達が苦しんでのたうちまわる。
ゆきはそれを鋭いまなざしで見すえていた。
いつもにこにこマイペースに笑っているゆきとのギャップに、ティーダが目をむく。

「すげえ……」
「おい、気をぬくな! やられるぞ!」
「っ、わかってるって!」

ティーダとアーロンが駆け出す。
そして、勝負は決した。


満身創痍のユウナ達の前に、ユウナレスカが崩れ落ちた。

「……私が消えれば究極召喚は失われる。あなた達はスピラの希望を消し去ったのです」
「だから他の方法を探すんだよ」
「愚かな……。たとえあったとしても、万一シンを倒せても、永久に生きるエボン=ジュが新たなシンを生み出すのみ」
「エボン=ジュ?」

ユウナレスカは恋人の名前を呟きながら、無念そうに消えていった。
幻光虫が舞い上がる。
スピラが長い間くりかえしてきた歴史が、ひとつ途絶えた。

「……とんでもないことしちゃったのかな」

ユウナレスカがいた場所を見つめながら、ユウナがぽつりと言った。
たとえほんの一時のことだとしても、ユウナレスカの誘いにのれば平穏をもたらすことができた。
その方法を自分達は消し去ったのだ。

「もっととんでもないことしよう」

沈黙を破ったのはティーダだった。

「シンを倒す。究極召喚なしで、しかも復活させないように」

力強く言いながら歩き出すティーダを目で追う。

「……どうやってって、きくなよな」

ティーダがにやりと笑ってみせると、つられて皆の表情も和らいだ。
疲労で体は鉛のように重い。
でも気分は晴れ晴れとしていた。

遺跡の外に出ると、夕暮れの中にシンがたたずんでいた。
静かにこちらを見つめている。
あんなに恐ろしかったシンが、真実を知った今ではとても悲しく見える。
やがて踵を返して去っていくシンと入れ替わるようにして、飛空艇がおりてきた。



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