13



ユウナとゆきを探してたどり着いた、アルべドのホーム。
そこで俺は、召喚士の覚悟を知った。

足元が崩れ落ちるような感覚だった。
怒り、悲しみ、罪悪感。
色んな感情がまぜこぜになって、目が熱くなった。

『全部終わったら、また』

俺がそう言う度、ユウナは静かに微笑んだ。
ユウナの気持ちも知らずに、なんてことを言ったんだろう。
謝らなきゃ。
絶対死なせない。
無我夢中で俺がそう叫んだ時のシドの顔は、どこか満足げだった。

ユウナ達がべベルにいるとわかり、飛空艇の進路が定まった。
空は快晴、視界は良好。
この速度ならきっとすぐに到着できる。

先程モニターに映し出されたユウナの姿を思い出す。
ユウナは花嫁衣装を着ていて、隣にシーモアが立っていた。
シーモアがユウナの手をつかんでいたのを思い出すと、怒りがこみあげてくる。
近くにはゆきもいた。
二人が生きていることはわかったが、そばにシーモアがいるだけに安心はできない。

先を歩くアーロンをちらりと見る。
一見落ち着き払っているように見えるが、アーロンはこれ以上ないくらいに不機嫌だった。
アーロンとは長年一緒にすごしてきたから、わかる。
こういう時はそっとしておくにかぎる。
俺は気づかないふりをきめこんで、飛空艇に潜んでいた魔物を倒すことに専念した。

親父がいなくなって、その一年後に母さんが死んで。
突然アーロンが現れた。
親父の知り合いだと言ったアーロンはよく家にやってきて、俺はよく世話をやかれた。
最初こそ警戒したものの、絆は次第に深まっていった。

いい年だから、恋人の一人や二人いたっておかしくないのに。
それは、俺が小さい頃から感じてきた疑問だった。
アーロンは無骨だが、優しい人間だ。
ザナルカンドにいた頃、アーロンに好意をよせる女性がいなかったわけではない。
だが、アーロンがなびく様子を見せたことはなかった。
スピラに来てからは、もしかしてここに残してきた恋人でもいるんじゃないかと思ったが、どうもそういう風でもなさそうだ。
アーロンがなんでザナルカンドに来たかわからないけど、身寄りのない俺を気にかけてくれていたのはわかる。
子どもの自分にはありがたかったが、もしかしたら俺を放っておけなかったせいで、そういうタイミングを逃したんじゃないか。
そう思う度、なんだか罪悪感にかられてきた。

そんなアーロンにも、ついにそういうタイミングが訪れた。
俺はそう思っていた。
大人しそうに見えて、意外と行動的。
まわりのことをよく気にかけるのに、自分のことはあまり考えずにつっぱしる。
直情型のアーロンと似た者同士かもしれない。

二人は一緒にいることが多くて、どちらかを探せば、もう一方が隣にいるのをよく見かけた。
アーロンが神経をとがらせている時も、ゆきがいると和らいだ。
素直に、お似合いの二人だと思う。
ゆきの気持ちはよくわからないけど、アーロンは自分の気持ちを自覚しているに違いない。
俺のためにも、幸せになってほしいと思う。

「ねえねえ、なんでシーモアはゆきの噂を広めたのかな」

不意にリュックが首を傾げた。
ちょうどゆきのことを考えていたところだから、どきりとする。
リュックはさっきドナから聞いた噂が気になったらしい。

「歌で人を癒す姿はまさに女神。召喚士ユウナと行動している、ってやつか」
「そうそう」

本人が聞いたら嫌がりそうだが、ゆきは巷で女神と呼ばれているらしい。
ミヘン・セッションでゆきを見た人々がそう言い始めたようだが、噂を本格的に広めたのはグアド族、つまりはシーモアのようだった。
ユウナが結婚の返事をする前に噂を広めた時と、やり口が一緒だ。

「よくわからないけど、ゆきを利用しようとしているのは確実でしょうね」
「利用って?」
「彼女の魔導士としての腕を考えると、そばにおけば大きな戦力になるし……。結婚に加え、噂の女神までついているとなれば、人々の信頼もより厚くなるでしょうね」

噂を率先して広めたということは、それだけゆきを手に入れることに自信があるのかもしれない。

「何それー。あたし、絶対阻止してやるんだから!」
「同感ッス」

憤慨するリュックを見て頷く。
これ以上、シーモアの思い通りにさせてたまるか。

無言を貫くアーロンの機嫌は相変わらず悪い。
あーあー。
あんなに怒るくらいなら、はやく素直になっちゃえばよかったのに。
後が怖いから、絶対アーロンには言えないけど。

「なにあれ!」

突然、リュックが途方にくれたような声をあげる。
外を見れば、巨大な龍がすぐ近くを飛んでいた。

「うわ、でか!」
「……ほう。なかなかの見物だ」
「エボン守護龍 エフレイエ。聖べベル宮を防衛する、最強の聖獣よ」

エフレイエは堂々たる風格で身をひるがえし、降下していった。
あんな巨体に飛空艇を突き上げられでもしたら、ひとたまりもない。

「最大級の歓迎だ」

皆が慌てる中、アーロンは楽しげに隻眼を細めた。
こういう時のアーロンは恐ろしい。
怒りにまかせて一撃で聖獣をぶった切りそうな勢いだ。
早いところ、ゆきを取り戻さないと。

「俺達が行くまで、無事でいてくれよ……」

祈るように呟きながら、俺は甲板に飛び出した。



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