「わあ」

街道をぬけた先に広がった風景に、思わずため息がもれた。
大きな河の水面には花が無数に咲きほこり、美しい光、幻光虫が漂っている。

「これが幻光河よ」
「綺麗だね」

夜になると沢山の幻光虫が集まって光り、まるで星の海のようになるのだという。
幻光河を眺めるルールーは、どこか懐かしそうだった。
前にここに来たことがあるのだろうか。

「そうだ!」
「夜までなど待たんぞ」

目を輝かせたティーダに、すかさずアーロンが釘をさす。
容赦ないなあ。
ゆきが内心苦笑していると、ティーダはしばらく考えてから皆に提案した。

「シンを倒したら、ゆっくり見に来よう!」

なるほど。たしかにそれなら問題ない。
その頃には私の旅も終わっているだろうか。
ゆきがそう思いながら皆の顔を見ると、誰もがうかない表情をしていた。

「……?」

どうしたのだろう。
首を傾げていると不意に風が吹いた。
風にのって花びらが舞い上がる様は幻想的で、とても美しかった。




「シパーフしゅっぱーつ」

気がぬけそうなかけ声とともに、シパーフが動き出した。
一向はシパーフに乗って、河の対岸を目指している。
水没した都市を見下ろしながら、ゆきは皆の話を聞いていた。
スピラでは機械の種類によって、使用に制限があるらしい。
知り合いの譜業マニア達が聞いたら、口々に不満をもらしそうだ。
……皆、元気かな。

「わ!」
「きゃあ!」

突然、シパーフが大きく揺れた。
思わず立ち上がって、あたりを見回す。

「座っていろ」
「は、はい」

ユウナが座り直そうとしたところで、何者かが飛び込んできた。
男だ。ユウナを後ろから羽交い絞めにして、再び水面に飛び込む。

「ユウナ!」

ユウナののばした手をとろうと身を乗り出すが、あと一歩のところで届かない。

「っ、わ!」

落ちる!
そう思った瞬間、ゆきの腰にがっしりとした腕がまわされた。
ぐいと引き戻されて、河への落下を免れる。
見上げればアーロンの顔が頭上にあった。

「あ、ありがとう」

ゆきの横をすりぬけて、ティーダとワッカが河に飛び込む。
揺れがおさまったのを見計らって、腕が離れていく。
思えば彼にはいつも助けられてばかりだ。

「ここで待つぞ。あいつらなら大丈夫だ」
「うん」

シパーフの上でしばらく待機していると、二人がユウナを連れて帰ってきてくれた。
三人とも怪我はないようだ。

ユウナを連れ去ろうとしたのは、アルべド族の男だった。
アルべド族が嫌いなワッカは嫌悪感をあらわにしたが、彼らの意図はわからずじまいだ。
何が相手でも、ユウナを守ることだけ考える。
きまずい空気を破るように言ったティーダに、ユウナはほっとしたように笑いかけた。


やがてシパーフが対岸に到着する。
先程の騒ぎでシパーフも少し怪我をしていた。
幸い傷は軽く、譜術ですぐ綺麗に癒えた。

「もしや、ゆき様では?」
「はい?」
「ああ、やっぱり。召喚士ユウナ様と行動されている魔導士様だとお聞きしたので、もしやと」

ふりかえると、数人からエボン式のお辞儀をされた。
いったい何事かと身をかたくする。

「我々はミヘン・セッションに参加していた者です。あなたの歌のおかげで命拾いをしました。一言、お礼を申し上げたくて」
「そんな。わざわざありがとうございます」

彼らは今から故郷に帰るのだと話してくれた。
助けられてよかった。
その笑顔を見て、心の底からそう思った。

「ゆき。行くぞ」
「あ、うん。……では、失礼しますね」
「旅のご無事をお祈りしています」
「ありがとうございます。皆さんもお気をつけて」

会釈をし、アーロンの元へ小走りで駆け寄った。
困った時にはいつも近くにいてくれるから、ありがたい。
二人連れ立って歩き始める。

「不思議な歌で人を癒す魔導士様。すっかり有名人だな」
「やめてよ、もう」

『様』をつけられて、恭しく名前を呼ばれるなんてがらじゃない。
むくれると、アーロンは小さく笑ってみせた。
ゆきにあわせてくれているのか、アーロンの歩く速度はいつもよりゆっくりだ。

「シパーフの傷の具合はもういいのか」
「うん。元々傷は浅かったしね。でもあの子、前に大怪我したみたい。古い傷跡があった」
「……昔、どこかの大馬鹿者が酒に酔って、あれを魔物と勘違いしてな」
「ああ〜……」

まるで見ていたような物言いに、ぴんときてしまった。
アーロンは10年前にユウナとティーダのお父さんと旅をしていたらしい。
ユウナのお父さん、大召喚士ブラスカさんは真面目で穏やかな人だったと聞く。
ということは、もしや。

「ティーダのお父さん……どんな人だったのかな」
「俺とブラスカはいつも苦労させられていたな」
「あはは。 ……あ、皆もう集まってるみたい」

合流すると皆にかこまれて、見慣れない女の子が一人立っていた。
金髪で小柄な可愛い女の子だ。
誰だろう。
目が合うと、人懐こい笑顔を向けられた。

「アーロンさん、リュックを私のガードにしたいんですけど」

彼女はリュックというらしい。
ユウナがそう言うと、アーロンは少女のそばに行き、何か話しているようだった。

「……ユウナが望むなら」
「私はぜひ」

ユウナが頷くと、アーロンはそれ以上何も言わなかった。
突然現れたリュックの加入に戸惑うワッカを見かねて、ティーダが擁護している。

「……そうだな。ニギヤカになっていいかもな」
「じゃあ、あたしはニギヤカ担当ってことで!よろしくお願いしまーす!」

ワッカの言葉を聞いて、リュックはにこっと笑う。
こうして、元気なリュックが加わることになったのだった。




[ 8/40 ]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -