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「半時前に同輩が、本宮の最上階の窓からただならぬお顔をされたエニーチェ様が南の空へと飛んでいくのを見たと申しておりました。殿下やピッチ殿なら何か御存知ではないかと思い、お呼び止めした次第です」
衛兵は淡々とそう述べ、二人の返答を待った。
「そうですか……しかし、残念ながら私も王子もエニー様とはお会いしていないので行先は判り兼ねます」
更に王子の意を確認するピッチ。
「先程来られたばかりの王子なら尚更でしょう」
「ああ」
かくして、当てが外れた事を知ると衛兵は深々と謝罪し、その場を去った。
歩みを再開した後、落ち着いた風が吹いた頃。ピッチがあることに気が付いた。
「王子、そういえばどうして王宮(こちら)に来られたんです?」
衛兵が去り、安心して進もうとしていたサリアの足が止まる。ピッチが何かを察し詰め寄った。
「王子、動きが怪しいですよ。……何かありましたか?」
意地悪い笑みを浮かべ、あくまでも疑問形でここぞとばかりに突いた。
「嗚呼――いさなさんと、何かあったんですね」
確信を持って彼女が更に図星をつく。サリアはその場に固まったまま。
「さて……、詳しく話して戴きましょうか」
笑みを絶やさない不気味な声色で、ピッチは遂に止めを刺した。
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内心面白がりながら主である王子をつついていると、はたと閃いた。というより、思い出したというべきだろうか。
「王子、南という事はエニーチェ様、下界へ向かったんじゃ――」
南というキーワードより重要な事を導き出したピッチは、すぐさまサリアに告ぐ。苦々しそうだった表情に届くと、彼は途端に真顔になった。
あいつ、いさなに何かするつもりなのか――?
無意識の内にサリアは南へと飛び立つ。
考えてみればそうだ。下界へ行くにはこの国の南を通らなければならない。そして彼女がその通り下界へいったとするならば、行先はいさなの家しか場所はあるまい。そもそも魔族は特別な理由でもない限り下界へはまず行かない。得がある訳でもない。
何より彼女はいさなの家に来ていた事がある。下界で知っている場所となれば、そこしかない。
ピッチは庭園で一人歩きながら、サリアは家に急ぎながら。離れているが考えている事は同じだった。
しかし謎はまだ存在する。何故彼女は再び下界へ降りたのか。目的は――何より、いさなは無事なのだろうか。
嗚呼、ほんの半時前の出来事とは。彼女の気配すら感じなかったというのに。
だとすれば、入れ替わりに向こうに行ったという事か。タイミングが悪い。何だってこんな時に。
サリアは心中で舌打ちした。とにかく今はいさなの所へ急がねば。ピッチは多分後で来るのだろうし、その後のエニーチェの処遇はとりあえず任せるとして。
「……っとにかく、間に合え!」