Magic.04:Page.03
天井を見つめ、空しく嘆息する。このまま身が沈むのではないかと思うほど、力は抜けていく。――もういっそ、沈んでしまいたい。視界を閉じると、底からそんな思いが浮かんでくる。親にも望まれなかった生ならば、生きる意味など探す気になれはしない。
自暴自棄になることで生まれたその言葉は、尚鋭利さを持って己に刃向かう。否定しても、意思が弱すぎて頼りにはならない。
もう一度視界を開こうとなるたけ意志を込めて薄らと再び天井が見えた時、窓の外から強い光が漏れてきた。何事かと思い、無意識の内に体を起こす。
光は一瞬だったが、しかしいさなにはそれが何かの前触れに思えた。起こした体を音を立てぬよう動かさず、どんな気配すらも逃がすまいと神経を尖らせる。
――カタリ。
読み通り、光だけでは終わらなかった。窓から引き続き音がする。慎重に、髪の毛一本動く音すら聞こえそうな空間の中、視線は窓へとじっと向けて。来客が、その姿を現した。
「エニーチェ、さん?」
いさなはただ素直に吃驚した。上から見下ろすその眼は、感情を抑制しているかのようだ。一呼吸おいて、向こうが話を切り出す。
「――久しぶりね。誰も居ない時で良かったわ」
彼女の言葉の意味が分からず疑問を返すべきか悩んで、首を小さく傾げるに留めた。サリアのいない今、家中がとても静かな代わりに少女に対抗出来る術はない。前回会った時にサリアにやたらとくっ付こうとしていた事を鑑みると、何があるにしろ彼がいた方が最善の状況と思うが。“誰もいない時で良かった”とは、どういう事なのだろうか。そもそも、何の目的で一人此処に来たのだろうか。謎は謎のまま、見上げながら彼女の次の言葉を辛抱強く待つ。
いさなを見下ろしながら、エニーチェは一瞬目を閉じ、深呼吸をして再度彼女を見据えた。そして、静かに告げる。
「私は――サリアの代わりに、貴方を消しに来たのよ」
風が邪魔をするようにざわめき、いさなの思考は刹那の間途切れた。
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庭園を歩きだして10分。そこだけは場所が変化したかのように、黒味がかったオーラが包んでいた。
「……何時までついてくるんだ」
我慢が切れたのか、歩みを続けながらも小さなお目付け役へ文句を垂れる。彼女はサリアを怠そうに見やり、嘆息して述べた。
「私は貴方のお目付け役ですからね。至極当然の事をしているまでですが?」
――ちっ。俺もタイミング悪ぃな。何でこんな場所(庭園)に帰ってきちまったんだ。などと自責の念を浮かべるが、しかし見つかった以上どうにもならない。
そうして二人が名付けようのないオーラを発している中、更に後方からまた別の声が二人を呼び止めた。
何事かと思い、素直に歩行を中断する。その呼び声に、何やら二人に縋るような感情が込められているのを察知したからだ。王子が立ち止まったのに併せ、ピッチも歩を止めた。
声の主は一般の衛兵だった。
「何かあったのですか?」
サリアの代わりにピッチが尋ねる。衛兵は敬礼を済ませるとはっきりした声色で、且つ二人にしか聞こえないよう音量を調節して、こう言った。
「お二人は――殿下は、エニーチェ様が何処に向かわれたか御存知でしょうか」
――エニーチェ? 何故こいつが? 二人は顔を見合せて、衛兵に話の続きを促した。