Magic.03:Page.04
いさなは夢を彷徨いながら、あてどなく歩いていた。
願いを探す為なのか。それとも理由もなく風の向くままに進みたいのか。
先程まで台風が吹き荒れるように激しかった夢の中が、今度はだんまりを続けていて。それはサリア達と会う前、一人で暮らしていた頃の静けさだった。
祖母の姿も声も薄れてしまいつつある。思い出は自分を寂しくさせ。形見だけが唯一の繋がり。
ふと歩いた先に、突然光が現れた。眩しいと目を細める余裕はなく、それは一気にいさなを飲み込んで――
そこで夢は途切れた。
目を覚ますと、薄暗い視界に見慣れた部屋の天井がぼんやりと映った。
「夢……」
部屋には自分だけ。倒れて眠っていた間にサリア達が何をしてくれたかは知らないが、此処に寝かせてくれた事は確かだろう。
熱でぼやける頭をゆっくりと起こし置き時計を見ると、夜に差し掛かっていた。
「いけない、もうこんな時間……晩御飯を……」
まだ怠さが残る体に鞭打ちながら、いさなは熱でほてった体を起こして歩き出す。
突然目の前がふらりと傾く。足元も覚束ない。咄嗟に扉近くの壁に手をつき凭れる。
ノブに手をかけ、壁を支えにドアを開ける。締め切られていた部屋から出ると空気が若干ひやりとしていて、体を緩やかに冷やす。
そろりと扉を開ける。入口から見て左側の居間にはテレビがついているだけで誰もおらず、続いて右側のキッチンを見るとピッチとサリアが食卓を囲んでいた。すかさず、二人が気付く。
「いさなさん、もう大丈夫なんですか?」
ピッチが食事を止め、慌てて駆け寄る。サリアはちらと一瞥したのみで、また黙々と食事を続け。いさなは扉にもたれながら駆け寄る彼女に言った。
「ごめんね、ご飯用意出来なくて……何とかなってるみたいで良かった」
「そちらのソファーに座って下さい。今お茶を用意しますから」
支えながら居間のソファーまで連れていく。いさなは支えられながらも少しずつ歩を進め倒れ込むように座った。
「有難う」
いさなが礼を言うとピッチはキッチンへと駆けていく。途中、何もせず食事を続けているサリアをひと睨みしながら。
サリアは気付かない振りをして、食べるのに忙しいのだと言わんばかりに食事に集中した。
いさなはただ彼女の一連の動作をじっと見ていた。まさか、自分の家で他人の家に来た気分を味わうとは。溜息を吐き、コップに手を伸ばす。ピッチは食卓へと戻っていった。
忘れていた筈のことを、また思い出す。一番の願いをどうするか。言葉を出すだけでも目眩がしそうだ。なのに、サリアの様子は。
「王子、何時まで食べてるんですか」
ピッチがしかめっ面で文句を言うが、しれっと返事を返す。視線は合わせずに。
「お前に言われたくない」
「もう1時間も黙って食べてるだけじゃないですか」
当然だとばかりに返す王子が憎たらしいことこの上ない。無言の中に厳しい空気が流れる。
随分と仲の悪い王子とお目付け役だ。いさなは横目でそれを見ていたが、とても止める気力はなかった。