Magic.03:Page.01
家は何時になく静まり返っていた。
まだ朝の8時なのだが、いさなは一人何処かへと行く準備をしていた。勿論、サリア達はまだ夢の中である。もし二人が起きた時の為に置き手紙と朝食を用意し、静かに家を出た。
家を出て歩くこと15分。住宅街を少し離れた景色の良い高台にそれはある。
目的の場所を見つけ、用意してあった花束と、水をなみなみと入れたバケツ、花束と一緒に添える物を携え、ゆっくりと。
笑いかける。本当は今でも哀しいけれど。上手く笑えているか、分からないけれど。
「……お早う。お祖母ちゃん」
貴方はもう何も返してはくれない。それでも、それでも。
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家ではピッチが動き出していた。何時ものように居間に向かい、いさなに挨拶をしようとするが誰の姿もなく、代わりに机の上に紙と皿が置いてあった。
のそのそと歩き、置かれている紙を見つめる。そこには短く、いさなからの伝言らしき事が書いてあった。それを一通り見終わり、今度は皿達を一瞥した。
「ああ、だからか……」
寂しくそう呟き、作り置きされているらしいおかずをレンジで温める。ただただ、長閑な朝だった。
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「ただいまー」
いさなが玄関の扉を開ける。返事が無い。まだ寝ているのだろうか。急いで靴を脱ぎ、居間へと向かう。
「ご飯冷めちゃうから温めなきゃ……」
居間へ繋がる扉を開けると、ピッチが既に起きていた。何だ、起きてたんだ、と思う暇もなく、いさなは飛び込んできた目の前の光景にただ驚いた。
「いさなさんっ」
ピッチが非常に困惑していた。どうしたのと聞かずとも、さっきから続いているこの鼻をつく何かが焦げた異臭が、ピッチの困惑している理由を物語った。その原因は――
「れ、レンジが急に、爆発したんです! 中に入れた物も黒焦げに……」
いさなは唖然とした。ピッチに魔力があるのが原因なのだろうか。単に故障に近付いていたのか。
考えていても埒があかない為、この状況を何とかしてくれそうな人物を探す。
――そうだ、これを"1番の願い"にして、サリアに何とかしてもらおう。そう思い立つと、いさなは居間を出、眠っているであろうサリアを起こしに向かった。
慌ただしく部屋まで向かう。上手い具合に、サリアが目を覚ましていた。
「サリア、大変なの! 助けて!」
寝ぼけ眼にいきなり扉が勢いよく開き、思わずサリアは素で驚いた。勿論いさなの気分はそれ所ではなかった。
「サリア起きてたんだね、丁度良かった! 説明は後でするから、すぐ居間に来て!」
「……何でだよ」
理由が分からないサリアは眉を顰めて問い掛けた。何となくそうなるだろう可能性は脳裏にありはしたが、お互いの気分が噛み合わない事にいさなは更に焦る。
「大変なの! ピッチにやってもらうにも、それ所じゃないし……これを1番の願いにする事にしたの」
「……仕方ない行ってやるよ。ただし、」
「ほんと? ありがとう、なら今すぐ!」
全てを言い終わらない内に、いさなは急いで下へ向かってしまった。いさなに話を分断され、途端にサリアの表情が段々と険しくなっていった。