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出会ってから早くも一週間がたった。いさなはもう話も飲み込め、二人の存在にも馴れてきた。
そう、いさなはサリアの修業に付き合う事になったのだ。付き合うのは別に構わないのだが、肝心の1番の願いというものが見つからない。
そのことを昨日相談した時、「まだ一週間しか経ってないので無理はない」とピッチは言ってくれたが、正直願いはまだまだ見つかりそうにない。それに、その「願い」には制約なるものが加えられているらしく、いさなが真っ先に考えた願いは見事それに引っ掛かり、敢え無く断念した。
それは人間の生死に関する願いだった。いさなは、亡くなった祖母に会いたい――そう願ったのだ。
(はぁ……)
いさなは中々決まらない願いに焦燥感を抱きながら朝食の準備をしていた。今日はちょうど休日なので、サリア達はまだ自室の隣室で眠っているだろう。
「良しっ」
朝食作りを切りの良い所で一旦終わらせると、いさなはまだ寝ているだろう二人を起こしに部屋へ向かった。
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昼になり、明が来る頃だろうといさなは待ち構える。
二人は家が徒歩で行ける近さ故、休日でもお互いの家を行き来している。因みに明の家は金持ちらしく、とても大きい。広すぎて、入り慣れたいさなでも迷ってしまう位だ。
それに、この新しい住人達の事も詳しく話さなければならない。前に学校で大雑把に説明はしたが、どうせなら直接会ってしまった方が早い。明は口が堅いし、信用に十分足る人物、それに何より今まで1番いさなの近くにいる親友だ。話さない訳にはいかない。
ふとそこへ、玄関の呼び鈴がなった。
……明だ。いさなは無意識の内に喜びながら玄関のドアを開けた。開けると思った通り、明が笑みを湛えて立っていた。
「いらっしゃいっ」
いさなは満面の笑みで挨拶した。明も笑顔でそれに応えた。
リビングに入って早々、開口一番に明が言った。
「で? この間の学校で言ってた事、早速だけど詳しく聞こうか」
いさなはその言葉に力を込めて頷いた。今日はその事で明を待っていたようなものだ。いさなは二階で待たせていたサリアとピッチをリビングに呼び集め、早速四人で話を始めた。
明がいさなの家に来てから、1時間が経った。明は落ち着いて話を聞き、心の中で整理しながら相槌を打っていた。
話が終わると、明は笑顔ではっきりと「秘密はちゃんと守るよ」と、三人に向けて告げた。その言葉を聞き、いさなとピッチは安堵の胸を撫で下ろした。サリアだけは終始何も気にしていない様子だったが。
明が帰ってからいさなは、この2人についての事実を知っているのが自分だけではなくなった事に酷く安心した。もう朝が来る度に、あれは夢だったのかなどと気にしなくて済む。そう思いながら、いさなは夕食の準備をした。
――しかし明は、その話を受け入れると共に、3人にある提案をした。それはサリアも一緒にいさな達の学校へ通うという物だった。
いさなは勿論、渋った。だが明は、いさなの性格を考慮した上でそう決めたのだった。
無欲ないさなの事だ、願い事を決めるのには、きっと相当な時間を要するだろう。その間、二人はきっと暇だろうし、サリアだけでも学校へ通えば、社会勉強にもなる。それにもしかしたら、そうやって過ごしていく内に、いさなも何か一つは成長出来るかも知れない。……とどの詰まりは、明の秘かな、尚且つ壮大な計画なのだった。
金銭関係は全てこちらが工面する。真面目ないさなはその事を気にしているみたいだが、大丈夫だ。なんせ家はあの、世界屈指の大富豪・柚原家なのだから。
実は、好奇心旺盛なサリアもその提案には乗り気であったので、サリアとは意外に気が合うのかも知れないと明は感づいていた。いさなとピッチだけは、その事が決まってもまだどこか不安気な様子だったが。
サリアは制服が出来次第、いさなと明のクラスに、いさなの遠い知り合いとして入る事となった(念の為ピッチはサリアの妹と言う事にした)。
――明の先見が当たるかどうか、それには更に一週間かかった。