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レンガを基調とした洋風の建物に、二学期も半ばに差し掛かった、3時間目の終わりのチャイムが響く。今日は雨の為、校内だけが何時もより騒がしかった。
後少しで昼休み――。早く昼ご飯を食べたい育ち盛りの中学生達は、今からもう昼休みの事を考えている。授業など聞く気は失せており、中には我慢しきれずに早弁をしている生徒も居た。
尤も、それは何時もの事であるが。
(長閑だなぁ……)
窓際の1番後ろから、そんなクラスメイト達の様子を眺めていたいさなは密かにそう思った。騒がしい彼らを横目に、いさなは次の授業の準備をし始める。
と、同時に手前から声がかかった。同じクラスメートで、いさなの親友の柚原明だ。
「雨嫌だねー。クラス何時もより煩いし」
少し怒った様に明が問いかける。それから少し間が開き、突然明が思い付いた様に言った。
「そうだ、今日もいさなの家に行っても良い?」
いさなは一瞬驚いたが、これも何時もの事。直ぐに驚きを笑顔に変える。
「勿論!」
いさなの返事を聞いて明も笑顔になる。
「あーあ、早く終わんないかな〜」
今度は待ち遠しそうな明の表情を見て、いさなは微笑みながら言った。
「大丈夫だよ。私達はこれが毎日なんだからさ」
いさながそう言うと、直後に4時間目開始のチャイムが鳴った。
*************
「起立、礼!」
「ありがとうございましたっ」
遂に4時間目が終わった。大半の生徒は学園食堂、そして自販機へと流れ込む。いさな達は、何時も教室で食べている。
いさなは机の上に手作り弁当を広げ、明は家のシェフが作った豪華な弁当を広げた。この辺りは流石金持ちである。
無論、それに負けじといさなの弁当だって美味しそうだ。祖母と暮らした頃から家事全般をこなしてきたから、弁当作りはお手のものだ。
二人は歓談を楽しみながら、長い昼休みを過ごした。これも、何時もの事だ。
昼休みが終わり、いさなは午後の授業中、ずっと窓の外を見ていた。別に授業が暇という訳ではないが、今は雨が降っているので、それがどうしても気にかかる。
そうやってぼぅっとしていると、気付けばもう5時間目が終わろうとしていた。板書はちゃんとしていたようだが、話は全て筒抜けだった。
後1時間で終わる――。一層クラスは煩くなった。
キーンコーンカーンコーン。
今日一日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り終わるのと同時に授業中の閑静な空気は破られた。
あちこちがしがらみから開放された様に騒ぎ立てる。その歓喜が絶頂期を迎えると、直ぐに担任が入ってきた。そして短いホームルームが終わると、後は家路を急ぐのみとなった。
*************
外の雨は、もうだいぶ小降りになっていた。二人は何時もの様に楽しそうに談話をしながら、いさなの家へと向かった。
喋っていると雨が段々弱まっていくのが分かった。家に着く頃になると、雨はもう止んでしまっていた。
会話の途中で突然、あっと明が声をあげる。いさながどうしたの、と聞くと、明は空を指差し、
「見て! あそこ、虹が出てるよ! なんか良い事あるかもっ」
明の指が指した先を見ると、確かにそこにうっすらと虹が存在していた。いさなは思わず感動し、明と同じ様に、何か良い事があるかも、と、小さな期待をよぎらせた。
その後いさなと明は家で何時もの様に楽しく会話をしながら、勉強やお茶をしたりと穏やかな時間を過ごした。
そうして時が経ち、夜になった。虹が出ていたあの時の爽やかな空とは打って変わって真っ暗だ。
いさなは闇と雨を激しく恐れる。あの時の想いがまだ染み付いているからだ。こんな日は昔の想いが決まって自分を締め付ける。だから、雨も夜も苦手なのだ。
いさなは、リビングで一人、テレビを見つめながらあれこれと昔に思いを巡らせていた。しかし、もはや視界はテレビなど映してはいなかった。今日は雨が降ってしまったから、嫌でもまたあの時の記憶が頭に映るのだ。
そう、大好きだった祖母が亡くなった時の事を……。