Dark.1:Page.1
何処までも続く木々。そして、何処までも続く沈黙。
「…………」
二人の人間が静かに、ただ静かに歩いていた。歩いているのは少年、そしてある程度距離を保ったその後ろに、少年より年上であろう男の二人。
男が退屈だと言いたげに盛大に溜息を吐く。
「はーあ……」
目の前をゆく少年に少しでも主張してやろうと思ったのだが、少年は端から何も聞こえないかのよう、至って自然にその主張を撥ね退けた。折角の溜息も無駄に終わり、男は今度こそ本来の意味で小さく息を吐いた。
(こいつ、少しは会話する気無いのか?)
旅の道中は新密度を深める為の言葉のキャッチボールってもんがあるだろ。なのにこいつ、必要最低限しか喋らねえ。ガキの癖に、何てませた奴なんだ。
――そんな奴にほいほい自分から付いてきたのはどこの誰だと、少年にばれたらあの子供らしくない慳貪な目で言われそうだが、幸い口は固く閉じていた。
(次の街に着くまで会話無しか、これじゃ)
男、カイトは何度目か分からない溜息を先を行く少年に聞こえないよう飲み込んだ。
そうしてお互い口を開く事もないまま、小さな池に辿り着き、そこで一旦休憩となった。
こんな時位は大丈夫だろうと積極的に、木陰で休もうとする少年に声をかける。“空気は読むが決してめげない・諦めない”が、彼の信条だった。当然ながら、少年もそれを受けて何かを返す筈、なのだが。
「僕は少し寝る。好きにしてろ」
「え、……はぁ?」
言った時には少年はしっかりと寝る態勢に入っており、既に瞼はシャットダウン。困惑しながらも文句を言おうとしたこちらの存在など、眼中に無いのだろう。
余りの唐突な、そして身勝手な――少なくともカイトはそう思っている――その行動に、怒りの言葉も出てこない。本日二度目の挑戦は、またも事が始まらない内に終わってしまった。
彼はだんまりの状態に何も不服はないようだ。それがかえって癪に障る。自分は大人の筈なのに、向こうは子供のはずなのに。色んな事が逆に思えてくるのはどうしてか。
(考えたってしゃーねえ。俺も寝るか)
カイトは少年とは少し距離を取り、光を避ける様に頭を日陰に向けて軽い眠りについた。