(死際-09 感性は葬られた)
死んだ。
滑らかな肢体は屍体となって姿態を晒す。
全ては終わり。始まりはない。
嗚呼――死際とは、斯くも無残なものなりや。
あの無神経な行動に因って、それは粉々に砕け、或いは雪のように溶けて、静かに、騒々しく死んだのである。
そして亡霊となった。
何にまとわり付くでもなく、彷徨う訳でもない。
当然のように鎮座ましまして、追い詰める事も追い詰められる事もなき存在。
意味を求める積もりはない。
何れ概念になり損ねて消えるのだ。
「お前のその浅はかな心根がばれたんだよ」
感性は溺死した。いや、焼死か、縊死か、はたまた圧死か。凍死かもしれないし、轢死の可能性とてあるやも知れぬ。兎に角何だって良い。死因など。
消えればもう蘇らない。膨大な過去の一部分となる事すらなく、焦げて滓になる道もなく。
ならば何故亡霊となったのか。愚問だ。最早推し量れる領域ではなかった。浮舟を繋ぐ綱は事切れて、後は流されるまま。
その死を引き止める気力ごと亡くす。無為徒食とは正しくこれだと、勝手な解釈を得る。そうして亡霊はその不気味さで以て侵食する。
罠だ。巧妙な落とし穴だ。と形ばかり藻掻いた所で、てんで話にならない。嘆く必要はないのだから。
見限った感情の捨場は何処にもない。いや――相応しき空間がない。どんなに他を切り詰めても、己からの解放を願っても。
心はそれが最期だった。もう、ない。無い。亡い。
嗚呼。
死際-09 感性は葬られた
(さようなら、たなごころ)