(死際-06 少年の独白)
私は己がその理不尽な男に因って殺されることを理解していた。この小さな体でどれほど足掻こうとも、いずれこの身に終焉が、刃と共に降り落ちてくるのだと。
幼き中に流れる研ぎ澄まされた感覚は正直であり、それを嘘と疑う余地は最早何処にも存在せず。
自分であって自分ではない正に擾乱渦動とした内を占めるのは私ではない。ある一つの魂――その理不尽な男である。
一つの器に相反する意思が錯落する様は実に見事な盤根の如く、いっそ面白いようにうねりにうねる。
その魂を受け入れた訳ではない。私の意識をこれでもかと押さえ付け身体の完全なる支配を望もうとする彼を、隙あらば追い出そうと機会を窺っていた。
だが好機は訪れず、とうとう肉体は彼に奪取され――結果、それはそれは凄惨たる光景が私の意識の前に映し出された。
私は彼を抑える事が出来なかった。それは偏に年齢の所為に因る所が大きい。大人のそれに比べれば遥かに未熟な胆力が災いしたのだ。
思うに彼はその弱さを狙って私を器にしたのかも知れない。もう今となってはどうでも良い事だが。
家族は死んだ。私の目の前で。あんなに優しく尊敬していた両親もあんなに可愛がっていた妹も、皆。
他でもない私の両の手がそれを推し進めた。否、正確には――私の肉体を支配した悪逆の限りを尽くしたという罪人の残虐な魂が、抵抗を繰り返す私の意思をものともせずに、である。
想像の域を出ない、得体の知れぬ神という代物に救いを求めるなど、今の私からすれば単なる愚行である。
だがその時の私も、不思議とそうはしなかった。ただただ自分にまとわりつく気味の悪い魂を離そうと躍起になっていたのみ。幼さと突然の出来事故、助けを希うまでの考えに至らなかったのだろう。
現状を受け入れられぬ間に何もかもが音を立てて崩れ落ち、気付けば事は全て終わっていた。
私には為す術がなかった。かの非道な魂に全てを奪われ、ただ指を咥えて掌中の珠が壊され消えていく様を遠くから眺めているしか出来なかったのだ。
私は狂瀾怒濤の意識を最後の最期、己を葬る為にかなぐり集めた。これがせめてもの私の、私なりの男に対する抵抗だった。
本来の主である私の想いを汲み取ったのか、その瞬間だけは、身体が思いのままに動いてくれた。
私は死んだ。私の意識の真ん中で。
暖かな家族にこの手が触れていたのかと思うほどに、全てが冷たかった。
死際-06 少年の独白
(どうしようもなく、ただ)