(望まないなら、望ませるまで)

 何時もの学校、何時もの教室、そして何時もの罵声。

「お前なんか生きてたって無駄なんだよ!」

 クラスの大将的存在の男子が、仲間を引き連れて私の席を囲む。
 何時もは黙って無視していたのに、その時、何かが私を突き動かした。

「じゃあ、私を殺してよ」

 嘲笑していた男子達は、決して大きくはない私の一言にはっきりと驚愕していた。周囲にいた無関係のクラスメイト達も気付いたのかこちらを振り向く。

「はぁ? お前、何言ってんだよ」
「だって、私は“生きてても無駄”な存在なんでしょう? あんたがそう言ったんじゃないの」

 予想外の出来事に彼等は対応できていないようだったが、大将である男子が辛うじて返そうと努める。

「バカだな! 俺はそんな……」

“そんなつもりじゃない”とでも言いたいのだろうか。それでも私の口は止まらなかった。

「ふうん、そう……殺す度胸も無いのに言ったの? “生きても無駄”なんて」
「ちが、お、俺は……」

 次第に気押されていく男子達の様子に、何処かで高笑いしながら私は続ける。

「口でそんな事を言えても駄目だって分からないの? 毎日聞かされてて不思議だったのよ。そこまで言うなら何故私を殺さないのって」
「だ、誰がそんな事するかよ! 犯罪じゃねーか!」

 恐ろしい位に饒舌である私の声帯は、特に興奮に包まれる事も無く落ち着いていた。

「あんたは私が“生きても無駄”と言える程嫌いなんじゃないの? だから何時も同じような事を言って罵るんじゃないの?」
「う、煩い! もういい、行くぞお前ら!」

 威勢良く啖呵を切った足は僅かながら震えており、私はそれに止めを放つ。

「だったら、あんたが私を殺せるようにしてあげるわ」

 間違いなく教室はざわめいた。10分休みはもう終わりに近い。次の授業の先生が何時来るかも分からない。
 硬直した身体を無理に動かそうとしてぎこちない音を発しながら、大将である男子はこちらを見下ろす。不気味な笑みを張り付けて、私は繰り返した。

「私を殺す勇気がないなら、私がそうなるように仕向けてあげる」

 そして彼はその場で突然、気を失った。


望まないなら、望ませるまで
(倒れるなんてつまんない奴。質の悪い冗談なのに)

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