一歳 | ナノ
「・・ほーたろー・・・、?」
「いい加減起きろ」

働かない頭と煩い心臓に戸惑いながら辺りを見回すと夕暮れのオレンジがこの部屋一帯を染めていて、この部屋、図書室に設置されてある時計を見れば5時を指していた。

「・・・・奉太郎は、何でいるの?」

そう問えば本を返しに来たと言った。そっかと言いながらまた頭を伏せるとバシッと頭を叩かれた。痛いと抗議をすれば寝るなと言う。放っといてあと30分はここにいるからと早口に返せば誰か起こすと思っているんだ司書に迷惑だぞと正論で返されてしまった。・・・・何だか眠気も覚めてきた

「・・・わかったよ、起きる。」
「早くしろ」
「・・・・、うん」

一緒に帰るという事に少し胸が高鳴った。いやだって帰るって、何年ぶり?一緒に並ぶなんてこともなかったし。あ、小学校の高学年の時たまたま鉢合わせた時以来?朝はもちろん噂になるとやっかいだからおはようと一言の挨拶のみだったし帰りは基本私は部活で帰宅部の奉太郎とは会わなかったし、そもそも部活がない日は私は友達と帰るから絶対にはち合わせることはない。今日はたまたまテスト前で部活が休みだったから涼しい図書室で勉強していたのだが何だこれ、ご褒美?受験勉強、頑張ってるから?ならべく早く机に広がるテキストやプリント、筆箱をスクバに詰めて何か忘れ物はないかとチェックし、消しカスをゴミ箱に捨てて待たせた、と言えば行くぞと言った。


「奉太郎はどう?順調?私はやっぱり数学が駄目なんだよね」
「お前の頭なら大丈夫だろう。」
「いや数学が本当にやばいんだって。とくにグラフがもう壊滅的。今度教えてよほーたろー」
「俺もお前と同じ文系だ」

そっかーと言って後悔した。あぁ、後は何を話そうか、沈黙が辛い。んー・・・暑いなぁ、でも、もう少し一緒にいたいと思ってしまう。ちらりと奉太郎を見れば暑そうに襟のあたりを掴んでパタパタと扇いでいた

「そういえば、部活はどうなんだ」
「え?」

無表情で目は前を見据えたまま。とくに何も考えていないのだろう。久しぶりに話すからだろうか、上手く受け答えができない。暫くすると私の視線に気がつき、その視線を何だと言ってこちらに寄こした。何でもない、課題が終わらないんだと言いながらまたちらりと本人を見た。

「さっきからちらちらどうした」
「いや、・・・・ねぇ、供恵さんに頼まれたの?送れって。」
「・・・あぁ」

そっか、口からポロッとそのまま出た。供恵さんも心配しなくてもいいのに。こんなに明るいんだし、そんなに道のりは長くないからすぐに帰れるのになぁ。・・・ま、そんなもんだよね薄々感づいてはいたけど、これで奉太郎がわざわざ私を待った理由がわかった。

「いやあ、ごめんねーわざわざお疲れさまです。どのくらい待ったの?私の事」
「本を返しに行ったついでだ。気にするな」
「そうなの?ならよかった」

本を返すだけならあんな時間までいる必要はないのに。奉太郎にしちゃあ、少し下手だなぁ。
こういう微妙にさりげなく優しい所は供恵さんに叩き込まれたのかなあ・・・

「あー、暑いなあ。早く秋が来るといいのに」
「秋になったらまた夏が恋しくなるんじゃないか。きっと10月頃にはまたぼやいてるに500円」
「・・・よくまぁそんな昔の言ったことを覚えてるねぇ」

あははと笑いながらも内心心臓はバクバクしてた。それ言ったの私が小学3年か4年の時じゃないか。覚えてくれていたことに何故こうも舞い上がってしまうのか。私も女子なんだなと感慨深い。
・・・あぁ、今日は本当に暑いな、夕日が眩しく感じる。


美 し く み え た あ の 空 は 、 今 。
(何も変わらないようで、変わっている)



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氷菓で季節物すごい楽しかったです。遅れ過ぎて・・・季節変わっちゃいましたが・・・!本当に申し訳ありません!
参加ありがとうございました。リクエストして下さった方に捧げます!
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