もしつよくいきられるのならば、 | ナノ

「・・・・こっこんばんは!」
「・・・、こんばんは」

インターホンが鳴ったので先生だろうかと念のためドアの穴を覗けば女の子がいた。見間違いかと思ったが、もう一度覗いても生徒会の書記さんだった。というか、この学園で女子生徒は私と彼女しかいないので確実だろう。生徒会で大分失礼な、生意気な事を言ってしまったと気にしていたので、生徒会の一人である彼女の訪問に不安を覚えてしまう。とりあえずこれ以上失礼の無いように早く出なくてはと思って、はい!となるべくはっきり聞こえるように返事をしながら出れば相変わらず綺麗な夜久先輩。この前貰ったプリントに生徒会として彼女の名前が載っていたが、名前は月子さんと言うらしい。夜久月子さん。名は体を表すというか、とてもぴったりだと思う。
そんな美しい、この星月学園でマドンナと呼ばれる彼女が目を泳がせながら、私の前に立っている。もしかしてこれはやっぱり謝った方がいいのだろうか。そう思い続けて何分経ったのか、いや正確にはそんなに経ってないのかもしれないけれど私には長く感じられた。
怒ってはないみたいだから少し安心したけれど、もしかしてわざわざ来たのは忠告かな。あまり変な事は言わない方がいいよっていう。うわあ嫌だなぁ。どうしよう、このまま逃げたい泣きたい。・・・・とりあえず、落ちつこう。夜久先輩が困っている。私も困っている。つまりこれはどちらかが話を進めないと駄目だ。終わらない、早く終わらしたい。あまり積極的な方ではないので先輩に話しかけるというハードルは高く、とても心臓が痛いが仕方ない。

「この前の、生徒会室での返事の件ですか?」

少し声が裏返ったけど、ちゃんと声は届いた筈だ。え?と綺麗な瞳をきょとんとさせた夜久先輩は可愛い。これはこの男だらけの高校で過ごすのはきっと大変だろうな、と頭の片隅で考えながら、もしかして違いますか?とまた聞き返せば「え?え!?ちっ違うよ」と我に返ったように首を横に振った。うわあ、勘違いか・・・なんか恥ずかしいな。ん?あれ、それじゃあ一体、

「っあの!メアド交換してくれませんか!」

今度は私が目を見開き驚いて固まる番だった。めあど、・・・あぁ、メアド?何故メアド?頭に上がる疑問を解決すべく考えた結果、すぐに浮かんだのは生徒会のお手伝いはすると言ったのですぐに呼べるように連絡手段が欲しいと言うことかもしれないという事。どっちにしろ生徒会の事だが、不躾な態度の事じゃなくてよかった・・・あぁ、こんなにスラリとしている美人な先輩に一生懸命にメアドを交換してくれませんかなんて言われたら男はイチコロだろうなぁ。メアドを教えるのは本音を言うと抵抗はあるけれど、これからお世話になる事もあるかもしれないし、とりあえず頷いておこう。
「わかりました、今携帯取ってきますからすみませんが待ってて貰っていいですか」と言えば首を縦に振ってくれたので急いで部屋に戻った。携帯、携帯、確かスクバに入れていた。あ、そういえば木ノ瀬にQRコード送らなきゃなぁ・・・・

「持ってきました。あの、私が先に送った方がいいですか?それとも、」
「あっ、えーと、私が先に受けとっちゃうね!よろしくお願いします・・・!」

携帯を少し前に出した夜久先輩に私も赤外線の画面にしながら前に出した。案外早く終わったのでこちらが次は受け取りますねと言いながら携帯をプロフィールの画面にして赤外線にした。

「はい、受け取りました!ありがとう。」
「いいえ、こちらこそ。私あまり携帯を見る機会がなくて、その、なるべくこまめにチェックしますが、気づかないことがあるかもしれません、ので。その時はすみません。」
「!ごめんね、ありがとう・・・」
「いえ、先輩が謝ることはないです。こちらこそすみません。あと部活が忙しいときは・・・その、生徒会の仕事は遅くなるかもしれません。」
「生徒会?」

少し違和感を感じて首を傾げると夜久先輩も首を傾げた。・・・もしかして、連絡先を交換したのは違う理由なのだろうか。

「・・・・あの、つかぬ事をお聞きしますが、連絡先を私に訪ねたのはお手伝いの件かと考えたのですが・・・・どういった了見で・・・?」
「へ!?そっ、え、え・・・そっそれは・・・ちっ違うの!!」

慌てた目の前の先輩を見つめながら、少し気になったが大人しく待つことにした。暫くすると今度は夜久先輩をは顔を少しだけ俯かせて悲しそうな、緊張しているような、そんな顔をした。だから今度は私が慌てる番だった。ええ?何か私は、夜久先輩に失礼な事をしてしまったのだろうか?

「・・・・・・・ご、ごめんなさい」
「・・・え?」

夜久先輩が綺麗な瞳で私を見た。少しだけそれにたじろいて目を泳がせたけれども、先輩の瞳を見てもう一度謝った。

「ごめんなさい。私、今、何か失礼な事言いました?その、無意識で、何か・・・気に障るような事をしていたのなら、本当に、」

ごめんなさい、ともう一度謝れば夜久先輩は瞬きを数回繰り返し、ハッと何かに気づいたような顔をした。自分がどんな顔を今さっきしていたのか気づいたみたいだ。・・・多分だけど。

「ちっ違う!それも違うの!ただね、私はっ」

その、あの、うー、と零す夜久先輩は、なんて女の子らしいんだろうと場違いながらも思ってしまう。これは本当に大変だ。・・・失礼かもしれないが先輩のここでの生活が不安になってきた。あっいや待て。確か夜久先輩には幼なじみがいた筈だ・・・きっと先輩の幼なじみさんは守るのに必死なんじゃないかな。こんなに無防備そうで、可愛いかったら。

「わた、わたっしと、」

顔を真っ赤にさせた夜久先輩が少し前のめりになったのでつい後ずさってしまう。あれ待って。何でこんなに近いのかな、え?え?何これ、どんな展開?


「お友達になってください!!!」
「え」

お友達。その言葉の意味が一瞬わからなくなった。年上の人に面と向かってお友達になってなんて言われたことがなかったし、この場合は年上とか気にせずにはいと返事をした方が良いのかそれともこれは私が理解してないだけで何かのジョークかなのか・・・わからない、私は人付き合いに関しては浅い方だから、知り合いはいるけど友達は少ないし、もしかしたらと前々から考えていたのだが、少し私はズレているのかもしれない。そうなると私はどう返せばいいのかな・・・いやでもこの場合、私はズレてはないと思う。ちょっといきなりすぎて思考がずれ始めてるけれどもこれはやっぱり本心だろうし、

「あの、」

何より信じたいし真っ赤にさせる夜久先輩は、わざわざ部屋まで来て、勇気を振り絞ってくれたのかもしれない・・・・もしかしたら、だけど。

「・・・私先輩より年下で後輩ですけど、友達って、その・・・」
「なっ仲良くしたくて!」

仲良く、したい。それは同性としてはありがたい事だ。お友達は流石に学年は違うし気が引ける。でもも先輩がいいと言うのなら、

「・・・・よろしくお願いします」
「!あ、ありがとう!!」


こんな事で喜んでくれる事がなんだかむず痒い。でもまぁとりあえず、「芭月ちゃんって呼んでもいい?」と嬉しそうに笑う夜久先輩は少し幼くて可愛かった。

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