もしつよくいきられるのならば、 | ナノ

「一年星座科みょうじ芭月、一年宇宙科天羽翼!お前等を生徒会役員に就任する!」

それに対する2つの間抜けな声、それはどちらも聞き慣れた声だった。勿論、名前も聞き慣れた、昔から知っている名前。

一人は天羽翼。自分のいとこだ。まさか同じ高校とは知らなくて、行きにたまたま会って少しびっくりした。
そして、二人目、みょうじ芭月。首席の挨拶で現れた瞬間、息を飲んだ。何で、ここに。芭月は頭が良いくせに要領が悪くて、翼とはまた違った意味で少し考え方が僕からしたら変わった子で、なのに少し影が薄いからか目立たない。本当は面白い奴なのに、人の前に立つのが苦手なのか前には立とうとしないから彼女はさらに影が薄れてしまう。隠れるのが上手いけどその癖見つけてくれないことを、自分を見てくれないことに対して、コンプレックスを彼女は無意識かはわからないが抱いている。感情を隠すのが上手な奴だけど、長年一緒にいてわからない筈がない。笑って誤魔化しているけれど、そんなのずっと近くにいたんだからわかる。本当に昔から不器用だった。
そういうところを含めて、二人はそっくりかもしれない。

「メール、送っとくか」

なんとか幼なじみがこんな男子校と同じような高校にきょうから通うという現実を受けとめながら自分の携帯の受信履歴の中から今頭の中を占めている張本人の名前を見つけ出して返信するためにメールを開けばそれは一昨日のものだった。
寮生活を彼女もすると聞いたので大丈夫なのかと送りつければ二時間後にきた「大丈夫」の一言。素っ気ない返事なのはいつものこと。中学に上がってから芭月は人の目をさらによく気にするようになった。高い声で笑う迷惑極まりない女子、とくに同学年の女子にいちゃもんを付けられるようになったからだ。いわずもがなそれは自分のせいで。芭月のことは自分が出来る限り庇ってきたつもりだが噂に寄ると全部は庇いきれなかったようだ。最近変わったことはなかったか、何か問題はあったかと問い詰めても中々口を割らず、しつこい何なのお母さんじゃないんだからと、呆れ顔で返すだけ。何だか自分の不甲斐なさもそうだが口を割らず迷惑そうな芭月にカチンときて頬を引っ張れば、痛い痛いと肩を叩いて焦った顔をした。その顔を見たら少しだけ満足して、その後芭月に何かしたと思われる女子に牽制をして。それで何とか事は収まったけれど芭月はそれでも僕に対して一線を引いていた。それでも、放っておけないと思うのは、やっぱりどこかで芭月を家族のように思っているからだろうか。

「・・・・・・」

こんな広い学園で芭月が迷子にならなかったらそれは奇跡に近いだろう。自分の教室に担任に引率されながら辺りを見回せば広さがよくわかる。向こうの校舎内を見るからしてこれはすぐには覚えられない。

あとで星座科がある階に迎えにいくか。

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