もしつよくいきられるのならば、 | ナノ

教室はどこだとキョロキョロと辺りを見渡していると先生に運良く声を掛けてもらった。案内してもらったのだが、どうやら名前は、はるき先生と言うらしい。苗字が名前みたいで、ちょっと・・・ちっちゃくて。若いからだろうか?元気で、可愛らしい先生だなと思った。

ガラッとドアを開ければ集まる視線。ぎょっとして急いで自分の席を探せばここだよーと西瓜くんが手を振りながら指を指して教えてくれたどうやら席が近いようだ、よかった

「大丈夫か?」
「なんかいきなり庶務にされそうになったけど断ってきたよ」
「あの生徒会長もだけどお前もすげーな・・・」

その言葉に力強く頷く。何なのあの生徒会長。すごいっていうか強引すぎる


「一年星座科みょうじ芭月、一年宇宙科天羽翼!お前等を生徒会役員に就任する!」


最初は何事かと思いぎょっとした。やっと挨拶も終えてうるさかった心臓が収まりかけていたというのに。もう、本当にびっくりした。

「あー、みょうじ、自己紹介してないのお前だけだからよろしく」
「!?え、あみょうじ芭月、ですよろしくお願いします」
「趣味はー?」
「趣味・・・・」

こういうのって、普通は前の人や皆に合わせて自己紹介するものだから趣味とか答えなきゃいけないなんて知らなかった。趣味、かあ

「天体観測と絵を描くことです・・・・よろしくお願いします。」

ぺこりと一礼して席に座って窓の外を眺めると桜の花びらが迷子のようにゆらゆらと揺らめいていて、陽射しが暖かい。こんな日は机に突っ伏して寝ていたい。感情に流されるように私は少し机に伏せるようにして背けるように目を閉じた。




「みょうじはなんか部活やるの?」
「私は、中学もやってたから美術部に入ろうかと思って、」

西瓜くんのあだ名がスイカくんに定着し始めた放課後、もう今日から仮入部は始まっているらしく早速行ってみようかと思っているメンバーもちらほらいる。私もその一人だ。

「西瓜くんは何か入ろうとは思ってるの?」
「俺はサッカー部かなぁ・・・」

お互いに、頑張ってねと手を振り合い、私は美術室の場所を念のために覚えておいた職員室に聞きに行こうとを下の階段に向かった。オープンスクールに来たときも大変だったからさっきの学校案内の時に職員室は覚えたけど、これから色んな教室を覚えなくてはならない。これから大丈夫かなぁ。西瓜くんにくっついていられたら楽なんだけど、彼にも交友関係というものがある。私がクラスに馴染めれば一番いいんだけど、女子一人で男子の輪の中に入るのは難しい。そもそも入試の時にいた数名の私以外の女の子達全員落ちるってどういうこと?



「あ、芭月。いたいた」
 


本人の、性格を表したかのような、黒く、艶のある髪。そして、紫の深いどこかを見据えるような。きらりと光る瞳。そして、しゃんとした背筋に華奢な身体。極めつけに声変わりしてから聞き慣れているアルトの声。

私の口から零れた「何で」は、彼がいつものように当たり前に、夢のように「そこ」にいたからだろう。でもこれは現実で。


「───きの、せ?」


目の前にいる人物が纏う制服を見て、私は意外にも冷静だった。人間、本当に驚いた時ってこんな感じなのか。
木ノ瀬が、星月学園に入学してしまったということは、つまり、どこへ行っても同じことなのだ。木ノ瀬の顔が今もちらついて離れない自分から私は抜け出せないということで。あぁ、私は、


「・・・・ちょうどよかった!ねぇ職員室ってこっちで会ってるよね?私美術室の場所聞きたいんだけど、」


ねぇ、何言ってるのちょうどよくなんか、違うでしょう?そんな事ない。全然違うよ、早速私木ノ瀬に頼って。情けないんだから、本当に。

「そんなことだろうと思った。・・・・芭月、メール見た?」
「見たよ」
「そう、びっくりしてたみたいだから見てないのかと思った」

少しだけドキリとした。何で私嘘吐いたんだろう。・・・あ、そっか。誤魔化すためだ。動揺を少しでも悟られたら、全部バレてしまいそうだから。離れようとしたこと、私の邪な感情も。全部、全部。

「改めて見るとさ、びっくりするっていうか、」


私、何でこの学校に来ちゃったんだろう。

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