「それで、言い逃げしたんだ」
「仰る通りです」

自信を持って言えば馬鹿じゃないのと溜め息を吐かれた。1日経つと反省はそりゃあしたけど言ってしまったんだから仕方ないんじゃないかとだんだん思えてきてもう腹を括ったつもりだった。だった、だったんだけど、木ノ瀬くんの顔を見たらそれも崩れてきた。まぁそう思えていたのはきっとあの夜電話した小熊君のおかげだろう。小熊君の優しさはそれはもう包み込むような優しさで精神科医とかになるべきなんじゃないかと思う程だ

「いやね、だって警戒されてるからこうじわじわと外堀から埋めてくべきかなと・・・」
「みょうじ、気づいてる?言ってること悪徳商法みたいだよ」
「気づかなかった・・・・・・そうだよね、」
「ん?」

・・・そうだ、何で昨日その考えに辿り着かなかったのかな。私。

「私がした事って、卑怯だよね。友達になりたいから無理やり断れないように宣言したり」
「今更気づいたの?」
「気づいてたけど考えたくなかったのかもしれない」

苦笑すれば、まぁそこが良いところなのかもしれないねと木ノ瀬は前髪を弄りながら言った。

「・・・・良いところ?」
「迷いがない所。だけど後々後悔する所を見るとちょっとあれだけどね」
「馬鹿だって言いたいのかな?うん?」

わざわざ言わなかったのにと言う木ノ瀬君こそ迷いがなくて羨ましいなぁと私は小さく溜め息を吐いた。迷いがないかぁ。全然そんな事ないんだけどなぁむしろ悩んでばかりだよ。

「・・・そろそろ休憩終わっちゃうね。ありがとう、話聞いてくれて」
「いや、僕が気になっただけだから。礼はいらないよ」
「でも、何て言うのかな、小熊くんがアメなら木ノ瀬くんはムチみたいな?きちんと考えることができたから。」

だから、ありがとうと笑えばみょうじは馬鹿っぽく笑うよねと苦笑された。な、何それ!?

「そ、それは女子には酷いんじゃないかな!?夜久先輩みたいにしてほしくはないけどさ、もっと言い方!言い方を変えようよ!写真撮るときとかこれから笑いづらいじゃん!」
「そうだね」

顔逸らしても肩震えてるから!何でこんなに失礼なの!?私なんかした?

「・・・っぶっ、くく・・・ご、ごめんごめん。でも、嫌いじゃないよ」
「そんな見え見えのフォローいらないよ!」
「?フォローじゃないけど」

きょとんとする木ノ瀬くんに何だか腹が立ってくる。こんな顔が整ってて可愛い木ノ瀬くんは笑うと可愛い。対して私は今まで意識したことなかったけど笑うと馬鹿っぽいらしい。何だそれ!ずるい!

「・・・あぁ、すみませんねー木ノ瀬くんは可愛いもんね!顔も!」
「ん?聞こえなかった。もう一回言ってくれるみょうじ」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!鼻千切れる!!!!」

べちべちと腕を叩きながら三回ぐらい謝れば木ノ瀬くんは痛いなぁとか文句を言いながら漸く放してくれた

「あ!ごめん!叩きすぎたかも!ごめんね?大丈夫!?」
「・・・・あぁ、やっぱり馬鹿だなぁ」

はぁああ!?と少し言いたくなったけど堪えてもう一度謝れば木ノ瀬くんは少し間を空けてから大丈夫だよ。こっちこそごめんねと言った。

「え?」
「ちょっと鼻真っ赤になってるね。ごめん」
「あぁ、大丈夫だよ。すぐに戻るから!木ノ瀬くんは・・・」
「みょうじぐらいが叩いたって全然平気だよ」
「そ、そう・・・・」

その自信家な所、嫌いじゃないけど、うん。たまに尊敬するよ木ノ瀬くん。


 ・  ・  ・  ・  ・  ・
 

お昼休みのが終わって一息着こうと朝買ったパンとお茶を片手にいつも昼食を一緒に食べてる小堺くんを呼ぼうとした時だった。小堺くんが私を誰かが呼んでいると言ったのは。ドアから顔を出すその人物を見てそちらに向かえば、もう一人、いた。つい目を見開いて、それから目を反らしてしまった。

「みょうじ、一緒にご飯食べよ」
「・・・・・、・・・・え」

昨日のあれで木ノ瀬くんは気を使ってくれたんだろうか。いや、でもね、急すぎるんじゃないかな

「あれ、木ノ瀬君、どうしたの?天文科に来るなんて・・・あまは、くんも」
「こ、ここっ小熊くんんん」

トイレから帰ってきた小熊くんの腕にガシッとしがみつけばおろおろする私と下を向いてる天羽君、にこりと笑う木ノ瀬くんを見てにこりと私に笑った。こ、これは!

「みょうじとご飯食べたいんだけど、みょうじ借りてもいい?」
「あ、いいよ」

えええええええ!ちょっええええええ!?一緒に来てくれないの!?私口下手だから何話せばいいのかわからないのわかってるよね小熊くん!!いや、そりゃあね、友達になりたいとか言い出したの私だけど、あれにはすごい勇気を出した訳で。だって何故なら私は笑うことしかできないコミュ障だから!そして笑い方が馬鹿っぽいと昨日言われたばかりな訳で。ていうかその人物とも一緒にご飯を食べる訳でして。


「頑張ってね」

耳許で小熊くんの声がした瞬間少しだけ泣きそうになった。



(自分で撒いた種だとわかってはいるのだけれど)

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