大きな掌で俺の頭を撫でてくれる、その手が俺は好きだった。

「止めてください!」
「何をだ?」
「だから、俺に触れるのとか‥」

もう人を好きにならないって決めていたはずなのに揺らいでしまう。
あの頃の先輩と同じ温もりで胸が苦しくなる。認めたくない感情が溢れてしまうから、自覚したくないはずなのに‥

「本当に止めてください!!」

強い口調で言うと高野さんは撫でていた手を離してくれたものの、次は顎を掴み上げられていた。

目を逸らしてもあまりに近い距離だからで鋭い視線を向ける高野さんが視界に入ってしまって、身動きが取れなくなってしまった。

「止めて欲しいなら、そんな目で見るな」
「は?」
「自分から誘ってるようなもんだろ」

俺がいつ、そんな目をしたというのだろう。
それにそんな俺にさせているのは高野さんが原因なわけで。
それを高野さんは知って、俺の反応を楽しんでいるに違いない。

(俺はただからかわれてるだけなんだ‥!)

そう思うと何故か悔しくて涙が込み上げてきた。泣き顔なんて見られたくないのに。

「‥どうした?」
「高野さんは、」

そこまで言って俺は言うのを止めた。
全部言ってしまえば、自分は高野さんのことが好きと告白してしまうようなものだから。それに捻くれてしまった俺は簡単には素直になれない。

そんな俺を高野さんは全て見通しているような目で見つめてくる。

「昔のお前の方が可愛かった」
「な、何言ってるんですか!?」
「また言ってみろ、あの時みたいに‥」

耳元に唇を寄せて、好きだと言えと囁かれると全身が震え上がり熱くなった。
その反応に高野さんはまた笑い、今度は唇を重ねてきた。
無理矢理に重ねられたそれを拒むものの、頭をしっかり抱き寄せられていて避け切れずに高野さんにされるがままだった。

「たか、の‥さ」
「ん、」
「ふっ‥ん」

深い口づけからやっと解放されると大きく息を吸い込んだ。
そして、高野さんに向かって大きな声で一言。

「だいっ嫌いですから!」

それは俺の最大の照れ隠しだけれど、断じて拒否する。

(絶対に好きになんかなるもんか!)

でも、恋に落ちるまでのカウントダウンはもう始まっていたのだった。


Fin..

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