愛してる、なんて言葉、あいつには絶対言ってやらねぇ‥
そう決めていたはずなのに。

「シズちゃんさ、いつもそんな恐い顔してるの?」

虫酸が走る奴の声に苛立ちを感じつつ、声のする方へと視線を向けると厭味な笑みを浮かべる奴の姿があった。

近くにあった電柱を強く握り、自我を保つ。電柱の堅いコンクリートをのめり込む指、そうでもしないと冷静に奴と会話も出来ない。

「何しに来やがった‥」
「酷いなー、せっかく会いに来てあげたのに」

誰もそんなこと頼んだことない。寧ろ、俺を掻き乱して苛立たせる奴なんか消えて欲しい。そんなことを思いながら、電柱を握る力を強めた。

「また器物破損で捕まるよ?」
「誰のせいだと思ってんだ‥」
「えー、誰だろう?」

自分だと認めない奴の胸倉を掴み上げて顔を近付けて睨み据える。
そして、貪るように唇を奪い、奴の言葉を封じた。

「‥んっ!」

しばらくして離してやると息を乱しながら俺にナイフを向けてきた。

「っ‥、なんのつもり?」
「こっちの台詞だ。てめぇこそ顔を真っ赤にさせて、なんのつもりだ?誘ってんのか」
「はっ!勘違いしないでよ。シズちゃんさ、意外にナルシスト?」

さらに赤くなる顔に図星だと分かるともう一度唇を塞いでやる。
ねっとりとした深い口づけに力の抜けた奴の手からナイフが音を立てて落ちた。
そして、唇を離して奴の耳元へ唇を寄せて囀るように紡ぐ言葉。

「俺のこと好きなくせに、てめぇが素直にならねぇからだろ‥」
「――っ!」

素直じゃないのはお互い様。

だから、俺の言葉に動揺する奴の反応ににやりと笑んで、また口づけた。



Fin..

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