「………」
「…死武専に…?」
First nameもFirst nameも、死神様の突然の誘いに驚きを隠せなかった。
目を見開き、数秒硬直する。
「そう。私直々の正式な誘いだ」
死神様は落ち着いた声で言った。
「どうして…こんな話を私達に…?」
First nameの問いかけに、死神様は一息置いてからまた話を続けた。
「君達にはとても優れた才能がある。それは君達自身が気づいていないかもしれない…。だからこそ私はそれに気づいて欲しいんだ」
「………」
「……それだけかよ?そんな理由じゃ俺達は死武専に入るわけにはいかねえな」
First nameは厳しい面持ちで、しかし静に言い放った。
First nameもその横で俯いている。何も言いはしないがFirst nameと同じ気持ちなのだ。
「もちろんそれだけじゃない。死武専に入って仲間と過ごす楽しさや、その中で生まれてくる絆、そういうものを君達に感じてほしい。」
First nameが僅かに反応する。
「First nameちゃん、First name君。君達は今までずっと君達だけの世界で過ごしてきた。それは二人に共通した過去があるからだし、一番辛い時間を共有し合ったからだろう?家族みたいに…いや、もしかしたらそれ以上にお互いを思っているのかもしれない。だけどこれからも永遠にそんな風に居ることなんて出来ない。時間は流れてるんだ、待ってくれない」
それは二人にとって理解しがたい言葉だった。しかしそれでも、死神様の言う事が間違いだとは思わなかった。
死神様はさらに話を進めていく。
「人は一人では生きれないってよく聞くよね?それは本当にその通りなんだよ。君達もお互いが居たから今まで生きて来れたんだろう?ずっと君達だけの世界が続くわけじゃない」
「だけど死神様……私は…!」
「分かってるよ、First nameちゃんが今一番不安に思ってること。その上で誘ったんだ」
優しく重ねられた言葉は、First nameが次に吐き出そうとした言葉を遮った。
First nameは心配そうにパートナーを見つめた。
「死武専に…もし入ったとしても皆が私のことを本当に受け入れてくれるか…怖いんです…。もうあんな悲しい思いをするのは嫌…!」
泣きそうなのを堪えているのが見て取れる。悲痛そうに言うFirst nameを見て、First nameの表情も悲しいものに変わった。
「うん、だからさ、それだったら尚更思い切って、“君達以外も居る世界”にしてみないかい?もっといろんな人と友達になって、その人たちを頼って、その人たちに頼られて…。君達が思ってる程に人の輪は冷たいばかりじゃないよ。とっても温かいんだ」
温かいというその言葉が、二人の胸にじんわり染み込む。First nameは俯いたまま少し顔を持ち上げる。この感覚が何なのか分からずにいた。
「もう一度聞く。死武専に入らないかい?」
First nameとFirst nameは、死神様から二度目の誘いを受けた。
First nameもFirst nameも、自分達だけの世界に閉じこもりたくてそうしている訳では決してない。
本当は普通の子達みたいに友達だって作りたいし人から優しさを感じてみたいとだって思っている。
だけど今までで一度もそんな事無かった。逆に嫌われ者だったから。
―怖い。死武専に入ってもどうせまた嫌われて終わるんじゃないか、と…
友達なんて出来るんだろうか。
過去に終わったと思ってたあの悲しさがまた襲ってくるような気がして恐ろしい。
人は闇だと思っていた。
死武専に入学して結局上手くいかなかったら、自分達の心まで離れて行ってしまうような気がして。
だけどこのままじゃいけないのは分かっている。何かを変える前に、自分が代わる必要があるのだから。
First nameはそう思った。
「First nameは…どうしたい?」
First nameを見ずにそう問いかける。当のFirst nameは少し驚いたような顔でFirst nameの方を向いた。
「私はね…死武専に入りたい。嫌われたらどうしようって気持ちと矛盾して自分の中の何かを変えたいって思いがあるみたい」
やっと顔を全部上げたFirst nameは苦笑しながら、馬鹿みたいでしょ、でもね、そう言った。
First nameは先ほどよりも驚いた表情だった。無理も無いだろう。自分のパートナーが死神様のいきなりで無茶苦茶な提案に賛成したいと願ったのだから。
誰よりも人を恐れ、誰よりも人に嫌われるのを嫌がっていたこの少女が。
First nameは驚いたものの、この少女に一生を捧げると誓ったのは自分だという事を思い出すと苦く笑うしか出来なかった。
「First name…俺は、職人が選んだ道を一緒に歩く。たとえそれがどんな風に転んだとしても、俺はずっとお前に着いて行く。
絶対にだ。」
「…!」
First nameは再び泣いてしまいそうになった。
自分の事を信用してくれているパートナーがいる事が、とても心強い事だと実感した。
何も言わずに着いて来てくれる事が何にも増してありがたい事だった。
「ありがとう…ありがとうFirst name」
「どういたしまして」
こうなったら進むのみだ。後で戻りたいと思っても、今まで以上の悲劇が待っている事を覚悟にしなければならない。
だけどもう、進む道は決めたから。
「死神様!」
「…答えが出たみたいだね」
凛々しく微笑むFirst nameを見て、死神様は安心したような声で呟いた。
「じゃあ、聞かせてもらおうか?」
「はい。死神様、私達を…死武専に入れてください!」
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