おはなし | ナノ


「大丈夫、安心して、すぐに俺も行くから」

ゆっくりと、けれど確実に彼女の呼吸を奪っていく俺の手。細い首を締め続けていけばいく程に彼女の呼吸はか細く、弱くなっていく。彼女の喉からは、ひゅうひゅうと枯れ葉が風にさらわれる様な音がして、それが一層この部屋の異様さを引き立てていた。苦しそうに顔を歪めるそんな彼女を冷静な目で見ている俺だったが、心臓は表情とは裏腹にどんどん鼓動を早めてく。俺が彼女のすべてを握っている。そのシチュエーションに俺は確かに興奮していたのだ。

「苦しいよな?ごめんな。でももうちょっとだけ我慢してくれたらすぐに楽になるから」

先程から静かに涙を流す彼女に言い聞かせる様にそう囁いた。更にあやすように頬を撫でれば彼女の涙が俺の手を伝った。それはまだ温かく、静かに俺の空虚を満たしていった。

「また後でな、愛してるよ」

ぐっと今以上に首に力を込めればあっと言う間に彼女は息をしなくなった。彼女はついに最後まで抵抗しなかった。そんな彼女を俺はどこか虚ろな目で見下ろしていた。

くたりと力の抜けた彼女を見て安心したのか、倦怠感が一気に俺の体を襲った。それはまるで自慰の後みたいで、何か行動を起こそうにも頭にもやが掛かったように何も考えられなくて、ただ冷えた彼女を眺めていた。たったそれだけの事が、とても幸せだった。



「ねぇ、起きて」

体を強く揺さぶられた衝撃で目が覚めた。頭に強烈な鈍痛を感じながら、未だ重い目蓋を開く。そこには心配そうに俺の顔を覗き込む彼女がいた。

なぜ彼女は生きているのだろうか?エンジンの掛かっていない頭でぐるぐると考えた結果、あぁ、あれは夢だったのかと言う結論に落ち着いた。それに今ここにいる彼女が何よりの証拠だ。安堵すると同時に仮に夢だったとしても俺は彼女になんて事をしてしまったんだろうと罪悪感で胸がいっぱいになった。

「最近よく怖い夢見てるみたいだけど」

そう言ってずっと頭を抱え、黙りこける俺を心配したのか彼女の手が頬に触れた。

最近よく?そこで俺はやっと彼女を殺す夢を見るのは今回が初めてじゃない事に気付いた。今回は絞殺だったが、その他にも刺殺溺殺ついには銃殺と、俺は様々なバリエーションで彼女を殺してきたじゃないか。せっかく忘れていた嫌な記憶を思い出してしまい、更に頭痛が酷くなった気がした。吐きそうだ。

「大丈夫じゃなさそうだね」

暖かな手がゆっくりと愛おしそうに俺を撫でる。生きている人の温かさ、その感触に泣きたくなった。俺はなんでこんなに好きな奴を、なんで。血でぐちゃぐちゃになったこいつの体が頭の中でリプレイされる。それは俺の作り出した空想のはずなのにやけにリアルだった。

青ざめて何も言おうとしない俺を心配したのか、彼女は何も聞かず、ただ体を優しく抱き締めてくれた。いつもは小さく感じる彼女の体が今日は何故だか大きく感じた。

「俺さ、お前の事好きすぎておかしくなりそうだわ」

いや、もしかしたらもうおかしくなっているのかも知れない。相手を殺して自分も死ぬ。そんな今の時代流行りもしない陳腐で滑稽な心中劇。心の底では俺はそれをお前に望んでると言えばどんな顔をするのだろう。

軽蔑する?離れていく?まぁ少なくとも良い顔はしないはずだ。だからこそ、俺は何回も何回も夢の中でお前を殺すんだろう。それこそ本当にお前が死んでしまうまで。

もう忘れよう。嫌な事は全部、記憶の底に閉じ込めてしまえばいい、いつもそうしているように。もう何度目かもわからない言い訳を自分に言い聞かせて、俺は目蓋を閉じた。今だけはもう少し寝かせてくれ。

「おやすみ、和成。良い夢を」




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