すったもんだありまして
後輩である陸遜との例の大事件(実はあの夜何も無かったのだと後から陸遜は白状した)の後。 私に告白したことで陸遜は開き直ったのか方針を変えたのか、非常に分かりやすい押せ押せなアプローチをしてくるようになった。そしてその勢いに呑まれるように彼と付き合うことになり、私は陸遜の先輩であり彼女であるという、仕事をする上でまぁ面倒な立場になった訳なのだが。 付き合いだしてからも陸遜は『ガンガンいこうぜ』のスタンスを変えるつもりもないらしく、私は心臓に悪い日々を過ごす羽目になっている。 誰もいない会議室。昼休憩で人の出払ったオフィス。女の子が井戸端会議を終えて出ていった給湯室。 お互いの境界線が変わった後輩との関係を認識する場所は様々だ。しかも陸遜は私が拒むことを見越してか、絶対に二人きりである状況でしか私に触れてこない。 そんなことにまで頭が回る大変優秀な後輩に迫られるまま、社内でキスなんぞしてる自分に冷静に突っ込みを入れなければ、と思う毎日ではある。
***
「――終わったぁー…」 「お疲れ様です」 「今、何時…?」 「10時28分ですね」
納入前に突然提示内容を変更してきたクライアントのせいで、相も変わらずコンビを組まされている私と陸遜はここ二、三日残業続き。 やっと終わった、と呟きながらデスクにおでこを落とすと、陸遜は伸びをしながら資料片手に近づいてきた。
「ちょっと今回はキツかったですね」 「もうほんとなんなのこんなギリギリに…」 「気に入りませんが、足元を見られているんでしょう」
苦笑している陸遜を机に伏したままぼんやりと見る。 誰かのデスクに腰をもたれかけさせて崩した長い脚とか、肘まで捲ったカッターの袖から伸びた筋肉質な腕とか、ちょっと緩めたネクタイと襟の隙間から覗く綺麗な鎖骨とか。 ただの後輩だった頃は気付かなかったことに、最近気付くようになった。そんなこと言おうもんならどうな目に遭わされるか分からないから言わないけど。
「何ですか?」 「ん?なんでもない」
まだデスクに頭を預けている私に、陸遜はちょっと微笑って私の背後に回った。軽く身構える私を軽やかにスルーしたらしい陸遜の手が肩に乗せられる。
「よく頑張りました、先輩」
程よい力で肩を揉む後輩に、私は顔を向けず、ありがと、と言った。なんだか恥ずかしかったから顔が見れなかったというのは勿論内緒だ。 うわ、すごく固いですよ、と頭上で苦笑する声が聞こえる。
今、幸せかもしれない。
疲労からか、らしくもなく甘ったるいことを考える。だから、つい思ったことを言ってしまった。
「陸遜の、そういう優しいとこは好きよ」
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔でぽかんと固まった陸遜に思わず笑いを溢す。いつもリードされてばかりの後輩から一本取ってやったらしいことに、少し気分が良くなった。 ふふん、と笑いながら陸遜を見ると、俯いてその表情は窺い知れなくて。 ――咄嗟に、嫌な予感が頭を掠めた。
突如、慣れた手つきで私の腰を腕力で持ち上げ椅子から立たせた陸遜は、慌てふためく私を全く意に介さずそのまま力技でデスクに私を腰掛けさせる。邪魔になったらしく椅子を足で蹴っ飛ばした。ちょっと!それ私の椅子なんだけど! そして何の躊躇いもなくカットソーの中に手を入れてきた。
「ちょ、何やってんの!?」 「キスしようとしています。そして最中にあわよくば胸も触ろうと思っています」 「そんなこと聞いてないから!」
抵抗虚しくすぐに陸遜に唇を塞がれ言葉も飲み込まれ何も言えなくなる。せめてと陸遜の胸を力一杯押し返そうとしたがビクともしない。 そうこうしている間に舌の動きはどんどん激しくなって、腕から力が抜けていくのが分かった。 私の抵抗していた腕が力なく落ちると、陸遜は唇をほとんど重ねたままでキスを止め、口元を緩めた。
「唯緋先輩、好きですよ」
――大変優秀な後輩は、私がほだされるタイミングすら完璧に把握しているらしい。
諦めて、再開されたキスに応えながら、そろそろと私の服の下に侵入してきた陸遜の手は遠慮無く叩き落としてやった。
悔しいことに情状酌量
リクエスト内容[陸遜/『凶悪犯に降伏』続編] 私はオフィスラブを何か勘違いしているかもしれない。陸遜短編の続編が読みたいと仰って頂き、大いに張り切って書かせて頂きました!梅様に満足して頂ければ幸いです。嬉しさで飛び上がりそうになるお言葉もたくさん頂きまして、本当にありがとうございます!(*´∇`*)これからもどうぞ遊びに来てやって下さいませ。リクエストありがとうございました(^^)
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