♯現代設定



扉を開けた姿勢そのまま、取っ手に手をかけた状態で俺は動けなくなった。
陽の光が差し込む部屋の奥、全身鏡の側で椅子に緩く腰掛けている唯緋の、ほんの少し伏せられた睫毛が頬に影を落としていて。そんな彼女を包む白色に、俺の目は釘付けられ息は止められる。
――綺麗だ。

ふと、俺の姿に気付いた唯緋が目を上げ、花が綻ぶように笑った。

「曼成」

今なら俺は、どんなに美人な女優やアイドルに言い寄られてもはっきり『No』と言える自信がある。



なんとか自力で金縛りを解き、部屋の中へ入る。しっかりと一歩一歩踏みしめるように唯緋の側まで歩いていった。

「曼成は上背もあるからタキシード似合うね」
「…おう」

近くまで行くと、唯緋の頬が珍しくうっすらと染まっていることに気付く。普段は憎まれ口ばかりの彼女もさすがに恥じらいがそうさせるのか、その表情も口調もどことなく甘い。
何故か俺の方が気恥ずかしさで直視できなくなり、微妙に視線を漂わせる。

「…ってちょっと、こういうのは新郎が先に言うもんじゃない?綺麗だ、とか」

言ったっつうの。心の中で。
照れ隠しなのか、むくれたふりをしながらそう不満を上げる唯緋に、ちら、と視線を合わせる。駄目だ、やっぱり直視できない。今更何照れてんだ俺。

「…あー、」
「ん?」
「何だ、その……ドレス似合ってるぜ」

なんでもないことのように装いながら言った言葉に、唯緋は口元をだらしなく緩めて笑った。あぁ、くそ。無防備にそんな顔しやがって。思わず髪をくしゃりと混ぜかけ、セットをしてもらったことを思い出しなんとか止まる。
どうせ退屈するだろう、と付き合わせてもらえなかったウェディングドレス選びだったが、唯緋は自分の好みも俺の好みも加味したのであろうデザインのものを身にまとっていて、そんなことにすら実感する。

「幸せになれるかな、私たち」
「…幸せにするよ。絶対」
「私一人だけ幸せでも意味ないでしょ?」

初めて会ったときから、こうなる予感がしてたんだ。
俺の勘はよく当たる。お前も知ってるだろ?

上体を落とし、そっと唯緋の色づいた唇に狙いを定めて顔を近付ける。
――しかし、それが重なる前に思いきり鼻を摘ままれた。

「……何すんだ」
「化粧崩れるからそういうのは後でね」

完全にキスする態勢の至近距離で飄々とそう言う唯緋に、ついつい渋い顔になりつつ顔を離す。やっぱり食えない女だ。珍しく可愛いげのあることを言ってるかと思えばすぐ元に戻る。

でも俺を見上げる表情は幸せに満ちたものだったから、まぁ、良しとしよう。




末長くどうぞよろしく






リクエスト内容[李典/おまかせ]
6月にはまだまだ早いですが、実は温めていた結婚式の話で。文中で李典に『セット』と言わせているのは勿論わざとです李典ファンの方々に怒られる。おまかせ、とのことでしたので自由に書かせて頂きました。気に入って頂けると良いのですが…。リクエストありがとうございました(^^)



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