「にしてもほんと天気良いよね。午後からどうしよっかなー」
軽く伸びをして、窓から見える青空に目を細める。雲一つない晴天だ。こんな日は時間がことのほか穏やかに流れていく気がする。
「街に行って買い物とかしようかなぁ。んーでも何もしないのも贅沢で良いかも」
暖かな陽光が降る室は、太陽の匂いと墨の匂いが仄かにして居心地の良さに私は思わず様相を崩して、持参した干菓子を一つ口に放り込んだ。
「――ね、どうするのが良いと思う?李典」
「…なぁ、唯緋」
首を捻るようにして見やった先で、文机に向かい筆を持つ見慣れた姿が物凄い仏頂面で手元から顔を上げる。何その顔面白い。
「見て分かると思うけど、俺仕事中」
「分かってるから李典のとこ来たんじゃん」
「…お前なぁ」
仏頂面からさらに眉間に皺を寄せてため息を吐く李典は、いつもなら続ける嫌味や軽口を出すこともなく軽く項垂れる。室に居座る私への小言も放棄するほどに疲弊しているらしい。
机に向かっての作業(勉学然り兵法然り)が苦手なことはもう直せないのだ、といつか言っていたのを思い出す。勿論それを知った上で今、李典の執務室に居座っているわけだが。
「李典この後暇?」
「…誰かさんが邪魔するから暇なんか無くなりそうかもな」
「久しぶりに街行ってもいいなー。あの肉まんの美味しいとこ!」
「聞けよ話を!」
邪魔してるってもしかして私のこと?と聞くと、あからさまに疲れた表情を浮かべてこめかみを押さえられた。しかし不満は上げつつ私を無視したりしない辺り、なんだかんだ李典は優しいのだ。
「疲れてんね。食べる?」
ちょうど口に入れた干菓子を咀嚼しながら袋の口を李典の方に向ける。すると李典はおもむろに、干菓子を摘まんでいた私の右手を掴んで、ぐい、と引き寄せた。
――そしてそのまま、口に含まれる。
ざらりとした感触が指先をなぞり、どこか他人事のように生暖かい温度を感じた。
ちゅ、と小さな音を立てて指が解放される。
「…これで充分だわ」
そう呟き、また姿勢を戻して何事も無かったかのように筆を動かし始める李典を、ぽかん、と見つめる。
「…」
「…」
「…照れるくらいならやんなきゃいいのに」
「…うるせ」
なんだか耳の後ろが熱いのは、きっと目の前の李典の耳が赤くなっているからだ。全部全部、こいつのせい。
あぁ、顔まで赤くしないでよ。私も何故か顔が熱くなってくるから。
ひたひた、伝染る
リクエスト内容[李典/甘]
李典って机仕事あんまり好きじゃなさそう。全力で邪魔してやりたい。大変お待たせ致しました…!みや様に少しでも気に入って頂けたら幸いです(>_<)す、素敵だなんて…本当にありがとうございます嬉しいです!(*´∇`*)陰などではなく日向からエールを送って下さって大歓迎ですよ!(笑)今回はリクエストありがとうございました(^^)