「――そんな訳だから、ちょっと若の面倒よろしくね」

どういう訳だ。
目の前で苦笑する馬岱と、ベンチに体を横たえ唸る馬超を見やる。話を聞く限りは明らかに自業自得だ。
でも、私はサークルのマネージャーだし、調子の悪い部員の面倒を見るのも仕事といえば間違いではない。そう言い聞かせ、溜め息をついてベンチの馬超の頭のすぐ隣に腰を下ろすと、目に見えて馬岱がほっとしたような顔をした。

「ごめんねぇ。じゃあよろしく」
「はいはい」

あんたも苦労するわね、という言葉は飲み込む。
グラウンドに走って行ってしまった馬岱の背中を見送っていると、馬超の頭が、もぞ、と動いた。

「…悪い、唯緋」
「自業自得。良いから寝てなさい」

掠れた声でもう一度、悪い、と言った馬超に聞こえないように息を吐く。
だいたい、バレンタインの日に彼女のいない男だけで飲み会なんて馬鹿すぎる。
それに、そんなものに参加しなかったら馬超に声を掛けてくる女の子はそれなりにいたはずだ。黙っていれば顔は良いからモテるくせに、そういう所が救いがない。

「どんちゃん騒ぎして朝帰りして、馬岱に怒られなかったの?」
「…いや、朝方帰ったときから何故か馬岱はすこぶる機嫌が良いから大丈夫だった」
「…そういえば何だか超笑顔ね馬岱」

私の言葉に苦笑しながら唸る馬超をちら、と見やる。
何だか憐れに思えてきて、側に置いていた鞄を探り、中にあったものを馬超に差し出す。

「サークルの後に食べるつもりだったんだけど、馬超にあげる」
「…な、」

私の手にある何の変哲もない板チョコ(スーパーのセールで一枚89円だった)を馬超は目を見開いて見つめる。何だろう、チョコ好きなのかな。

疲れたときには甘いものが、と言いかけた私の腕を、飛び起きた馬超(二日酔い大丈夫なのか)が、がしり、と掴んだ。

「…もらっていいのか」
「へ?うん」
「そうか、」

何故かチョコごと私の手を思いきり掴んで震える馬超に首を捻る。
すると、勢いよく顔を上げた馬超が目をこれでもかと輝かせて口を開いた。



「俺も唯緋が好きだ!付き合おう!!」



…は、
え、何その急展開。ていうか声大きすぎ。

事態を飲み込めず固まったままの私の耳に、遠くで焦ったような馬岱の声が聞こえた気がした。

目の前で満面の笑みを浮かべて私を見つめる馬超に少しドキッとしたなんて、気のせいだ。そうに違いない。




一日遅れの魔法はいかが




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