「どんなチョコをお探しですか?」

突然かけられた声に、はっ、となって顔を上げると、明るい笑顔を浮かべた店員さんと目が合う。
驚いてまごつく私に、店員さんは少し慌てたように、すみません、と言った。

「とても悩んでいらっしゃるご様子でしたので…」
「あ、いえ、はい、」
「ご希望のチョコの種類や特徴を言って頂ければお探ししますよ」
「あ、…あの、あんまり甘くないチョコってありますか?」

優しそうなその店員さんに思い切って聞いてみると、店員さんは笑顔でいくつかのチョコを手で示してくれた。どれもびっくりするほど高い値段という訳でもない。
どれにしようかまた悩み出したとき、店員さんの横に男の店員さんが、ひょこ、と現れた。

「これなんかは男性にも喜ばれますよ。中にお酒が入ってるのでチョコは甘さ控えめですし」

新たな店員さんの登場に少しまた驚いたが、これまた明るい笑顔のその店員さんが教えてくれたチョコを手に取ってみる。
そういえば、惇兄はお酒が結構好きだったはず。よし。

「これ、ください」

顔を上げてそう言うと、息の合った二人の店員さんはにっこりと笑って、私もつられて笑顔を浮かべた。







「惇兄、お帰り!」
「…唯緋?どうしたそんな所で」
凭れていた門扉から離れて急いで惇兄の元に向かう。今日は早く帰れるという仲権からの情報は正しかったらしい。
仕事帰りの惇兄はスーツ姿で、やっぱりかっこいいな、と改めて認識する。

「はいこれ!」
「ん?あぁ、」

数時間前に買ったばかりのチョコを渡すと、惇兄は口元を緩めて、ありがとうな、と言った。
嬉しくてにやける私の頬に、惇兄の手が伸ばされ触れる。

「…冷たいな。隣なのだから家で待っていれば良いだろう」
「えっと、まぁ…」

淵ちゃんと仲権とは違うチョコを惇兄にだけ渡しているからだとは勿論言えない。

「上がっていけ。淵に茶でも淹れさせよう」
「…うん!」

穏やかに笑って促してくれた惇兄に満面の笑みを返す。
ちょっとだけ背伸びをした今年のバレンタイン、結果は上々だ。




すぐに大人になるから待っていてね





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