▼とりあえず頷いておきましょう


ぱちん、ぱちん。

私と張コウ先生しかいない理科準備室に、ホチキスの小気味いい音が響く。私は割りとこの音が好きだ。うまく止まった時は気持ちの良い音で、芯が曲がってしまったときは潰れたような鈍い音。
私の向かいでプリントをホチキスで止める張コウ先生の手付きは流れるようで、出来上がったプリント束が瞬く間に積まれていく。

生徒部で使う書類を作成するとき大抵は何人かで行うのだが、今日はたまたま私と張コウ先生しか手が空いていなかったのだ。そんな訳で、二人での作業である。

「そういえば張コウ先生」
「はい?」
「この間の中間テスト、学年平均どうでした?」
「あぁ、悪くはありませんでしたよ。前回より上がっていましたし。唯緋先生の方は?」
「うーん…あんまり良くなかったんですよ。今回は範囲広かったからかなーって」
「そうでしたか」

ちょっと眉を下げて微笑んだ(相変わらず綺麗な顔だ)張コウ先生に苦笑を返す。

「物理は他の学年と比べてもうちの学年は成績良いらしいですね。やっぱり、張コウ先生の教え方が良いんでしょうね」
「あぁ、それなら嬉しいんですが」
「きっとそうですよ。私は学生時代、物理の先生の説明ちんぷんかんぷんでしたもん」
「そうなんですか?それは勿体ないですね」

ちょっとおかしそうに笑った後、言葉を切って真剣な眼差しで私を見る張コウ先生に、きょとん、となる。怒っているなどという訳ではないらしいが、物申したい、というような雰囲気が伝わってきて私は思わず背筋を伸ばした。

「物理より美しい学問は無いと言っても過言ではないでしょう。その美しさを知らずに過ぎてしまったとはなんと勿体ない…!」

「…は、はぁ」
「きっとその先生は物理の本当の美しさを教えるまでに至れなかったのでしょう…あぁ、もし唯緋先生が今生徒なら、この張儁乂が真の美をお教えできたのに…!」

憂いを顔に浮かべて嘆き始めた張コウ先生の姿に呆気に取られつつ、前に夏侯淵先生が言っていた言葉を思い出す。あいつのあれは習性みたいなもんだから、とかなんとか言っていたはずだ。
私が曖昧に笑って頷きながらホチキス止めを再開すると、張コウ先生も、残念だ、口惜しい云々言いながらも作業を再開させる。
私が物理の美しさを理解できる日は多分来ないだろう、ということは、張コウ先生には言わないことにした。






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