体重をかけて包丁の背を押し込む。まな板とぶつかって響いた大きな音に、隣で作業をしていた陳宮の肩がびくっと跳ねた。
「あ、ごめん」
「…少々驚きました」
「かぼちゃ固くて」
眉を下げた笑ってみせると、陳宮は神妙に頷いて、もう驚きませんぞ、と言った。
普段料理をほとんどしないって言ってたから、かぼちゃを切るときはこうなりやすいと知らなかったらしい。
「そのかぼちゃは何に使われるのですかな?」
「シチューに入れようかなって思ってる」
「そうですか」
なんとも言えない表情を浮かべた陳宮に、あれ、と思う。
「もしかして、シチュー苦手?」
「いえいえ、そうではないのですが…」
「うん?」
「……かぼちゃが、あまり好みではなく…」
サラダ用のレタスをちぎりながらぽつりと言う陳宮に、思わず目をしばたかせた。大の大人がかぼちゃが好きじゃないって、
「…笑わないで下され」
「ごめん、なんか可愛くて」
拗ねたように唇を尖らせた陳宮の横顔を盗み見ながら、込み上げる笑いを飲み込む。いつもはあんなに頭の回転も早くて頼りになる彼が、まるで子どもみたいに見えた。
「それ玲綺ちゃんの前で言っちゃ駄目だよ」
「…心配無用ですぞ。唯緋殿が作られた料理は残しませんので」
当たり前みたいに言われて顔が熱くなる。こうやって不意をついてくるからずるい。
会社の事務所で愛娘のためにハロウィンパーティーを開く呂布社長は親バカだと思うけど、準備の合間にこっそり二人きりを満喫してる私逹も充分バカップルってやつなんだろう。
包丁を置いた手を引き寄せられ、唇に降ってきた柔らかさを感じながらそんなことを思う。
「…そこはトリックオアトリートって言えばいいのに」
「そんなことを言わずとも、甘いものと悪戯の両方を仕掛けてさしあげましょう」
ばか、と言いたかったのに、また声ごと蓋をされてしまってそれは叶わなかった。