大学を出て最寄りの駅に入ると、そこに広がる光景はいつもと少し違っていた。
黒猫やら魔女やら悪魔やら、様々な仮装に身を包んだ人達が改札を抜けて行く。
「ハロウィンの仮装かぁー」
横目に眺めつつ同じように改札を通ると、隣を歩く関興がこっちを向いた。
「仮装して集まって何をするんだろうか」
「ん?お菓子の交換とかパーティーとか…まぁただ単に仮装してみたいって気持ちもあるんだろうねえ」
「そうか」
納得いったのかわ分からないが頷いた関興に、仮装について考えてみる。変身願望とはちょっと違うのかな。非日常体験?うーん。
目的のホームに到着し、二人して立ち止まる。関興がまたふいっと私の方を向いた。
「唯緋、トリックオアトリート」
「…え、あぁ、うん。はい」
手のひらを上にして右手が差し出される。一瞬その右手を見つめて、鞄から小さなチョコの包みを数個取り出し手のひらの上に置いてやった。
チョコをまじまじと見つめた関興が、少しだけ首を捻る。
「…何か違う気がする」
「え?何が」
「やっぱり仮装をした方がいいんじゃないか」
「…え?」
「ナースとか」
それハロウィン関係なくない?
本気なのか冗談なのか分からない真顔を見上げる。
決してメインは仮装ではなく、お菓子のやり取りのはずなんだけど、あれ。