ソファーに寝転がってテレビを眺めながら、次々に出てくるあくびをやり過ごす。
窓の外は夕方で、日が落ちるのも随分早くなってきたなあとスウェットの裾を軽く引っぱる。
そのとき、ピンポーン、とドアチャイムが軽快に鳴った。

「はいはい、っと」

インターホンのボタンを押すと、玄関前の映像が映し出される。そこには、何故か黒い三角の何かが映っていた。

「…なんだこれ」

無意識に呟くと、三角が揺れた。

「こんばんはっ」
「…え、え?」

インターホンから流れた声は完全に聞き覚えのあるもので、俺は慌てて玄関へ向かう。

「…唯緋ちゃん?」
「あ、司馬昭さん!」

扉を開けた先に居たのは、黒いとんがり帽子を被ってマントを羽織った、隣の家に住む女の子だった。

「トリックオアトリートです」
「……あぁ、今日ハロウィンか」

やっと全てが腑に落ちた俺に、小さな魔女は楽しそうな笑顔を見せる。台所事情を思い返しつつ、首裏を掻いた。

「あー、今お菓子とかないんだよな…」

若干申し訳なく思いながら申告すると、魔女はきょとんとした後にまた笑った。

「わかりました。司馬昭さん、ちょっとしゃがんでください」
「ん?」

なに?と聞きながら腰を落とす。
俺の右肩に手を置いて、右頬に魔女は小さな顔をくっつけた。
一瞬触れて、離れていく顔は少し恥ずかしそうだ。

「トリートです!」

そう言って、とんがり帽子を両手で掴んだ魔女は照れ臭そうに走って行ってしまった。

背中を見送った俺は、おもむろにケータイを取り出し電話帳を開く。

「……あ、元姫。あのさ、唯緋ちゃんにさ、うんそうお隣の。ほっぺたにちゅーされたんだけどやばい可愛すぎてやばい」



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