「――申し上げます!!樊城にて呉の裏切りに遭い、撤退の末関羽様討死!!共に撤退した関索様も重傷を負ったとのこと!!」 「関羽様と関索様を撤退させるため樊城に籠城した関平様、唯緋様、――共に討死!!」 世界が、ぐらり、と揺れる。 そんな、まさか。口に出そうとした言葉は喉の奥に張り付いたように音にもならない。 私の隣で、星彩が血の気のない拳を握り締めるのが見えた。 脳裏で、小さなあの子の姿が浮かんでは消えた。 妹などと。 思ったことはなかった。 初めて出会ったときから、唯緋は私にとって特別で大切だった。 私を慕って懸命に追いつこうとする唯緋のために、いつでも師として真っ直ぐ立っていなくてはならない。唯緋の未来を邪魔してはいけない。そんなものは全て詭弁だ。 私はただ臆病者だっただけだ。 唯緋の気持ちを見て見ぬ振りをした。唯緋が私に思慕の念を口にしてしまわないように。その為に、再三勧められていた婚儀ですら受けた。 師弟としての関係を結果的にずっと強要していた私が、今更こんなことを思うことすらおこがましいと、そう言われるだろうか。これは報いなのか。罰なのか。 分からない。分かるのは、何よりも大切なあの子が、もうこの世に居ないということだけだ。 「――殿、趙雲殿」 掛けられた声に、はっとなる。顔を上げると、必死に唇を引き結んだ星彩と目が合った。 「殿の元へ、参るようにと」 「…あ、あぁ」 呟くようにそう言った星彩の真っ白な顔と、私達に伝令に来たときのまま拱手の姿勢を崩さずいる兵を見やり、なんとか頷く。 頷いた私に、星彩は拱手をして頭を下げる。その表情は窺い知れない。だが、普段は気丈な彼女の肩が小さく震えていることに気付く。 その肩に手を伸ばしかけ、やめた。今、私が星彩に何を言えるというのか、と思ったからだ。 もう一度小さく頷き、足を踏み出す。体はなんとか動いてくれた。しかし、私はいつもと同じように歩けているだろうか。 劉備殿の居る玉の間へ向かいながら、震えた小さな星彩の肩を思い出す。 隣にいるのが関平ではなく私だったことを星彩に申し訳なく思う、と、場違いなことをぼんやりと思った。 思い浮かべていた星彩の姿が、唯緋の姿に変わる。いつの間にあんなに大きくなったのだろう。ずっと小さいままだと思っていた。 今、やっと気付いたなんて。 あの子の隣に立っていたかった。 涙すら、出てくれないというのに。 |