槍を引き付け、大きく繰り出して敵を弾き飛ばす。この槍は初めて戦場に立ったときからずっと私の相棒だ。そういえば、趙雲殿が選んでくれたんだった。私の自慢の秘蔵っ子だと言ってくれて、趙雲殿の下なら私はなんだってできると思っていた。

頬を冷たい雨が濡らす。装束も水を吸って重くなっているらしい。いや、水だけではないんだろう。
時折ぶつかる関平の肩から伝わる僅かな体温が、私の意識をなんとか繋ぎ止めていた。
知らなかったんだ。関平が関羽様の息子として、長男として、とっくの昔に覚悟を決めていたことを。ずっと一緒にいたのに、知らなかった。
関羽様に撤退を進言したとき、関平の表情は全く揺るがなかった。だから私は、関平と残ることを決めた。そして誰も引き留めないでくれた。私も決めたのだ、覚悟を。

脇腹に鈍痛が響く。ちら、と見やると、装束が赤に染まっていく。あぁ、関羽様も張飛様も似合うと誉めて下さったのに。
体勢を変えようとしたとき、関平の顔が少しだけ視界に映る。悲壮感の欠片もない、凛々しい横顔だ。
そして気付いた。関平は信じているんだ。関羽様と、関羽様を任せた関索のことを。
ならば私も信じよう。最後の時まで、尊敬する師の自慢の弟子であろう。それが私の、唯緋という一人の武将としての生き様だと胸を張れるように。



雨の温度も、誰かの叫ぶ声も、全てが遠い世界のもののように思えた。
関平、隣で肩を並べ戦うのが星彩じゃなく私でごめんね。
薄れゆく意識の中で、そんなことを思った。

雨は止まない。




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