どんなことがあっても時間というものは変わりなく進む。勿論、私の葛藤なんていうちっぽけなものは時の流れには気にも止められない。
私は焦っていた。

「この気持ちが恋なのはもう分かってる。でも、師として趙雲殿を尊敬してる気持ちも私には本当に大切なものなの」
「そうね、知っている」
「どちらかを優先するなんて、できそうにないんだ」
「…えぇ」

私が趙雲殿を慕う気持ちをようやく自覚した日から、星彩はいつだって嫌な顔一つせず私の話に付き合ってくれている。自分でも上手く整理できていないというのに、星彩は本当に優しい。
星彩に助けをもらい、私は自分の感情にぶつかりながら答えを出そうとしていた。
しかし、荊州行きの日取りはもうすぐそこまで迫っていて。

「…ねぇ、唯緋」
「なに?」
「今すぐ答えを出す必要は無いと思う」
「…え?」

時間がない、と焦っていた私は、星彩の言葉に虚を衝かれたように固まった。

「今は魏との戦いが手一杯だから趙雲殿は婚儀を延期するらしい、と父上から聞いた」
「そ、そうなの…?」

唖然としたままの私に、星彩はちょっとだけ間を置いて続けた。

「えぇ。だから、唯緋も答えを出すのは荊州から戻ってからでも遅くはないと思うわ」

星彩の言葉に、ふっと肩から力が抜けるのが分かった。そんな私の様子に気付いたのか、星彩も小さく口元を緩める。

「…そうだね。自覚したからっていきなりどうこうしなくちゃいけない、なんて訳ないね」
「えぇ。今までこんなにも長い時間を掛けて培ってきた感情だもの。簡単に変えたり選んだりする必要は無い、私はそう思う」
「うん。星彩の言う通りだ」

戦場に向かうときは、私は趙雲殿の教えを受けた者として行きたい。それが趙雲殿への尊敬の証だと思うから。
その気持ちを否定する必要は無いと星彩は言ってくれた。

立ち上がった私に、もう大丈夫そうね、と言った星彩に笑ってみせる。

「本当にありがとう、星彩」
「気にしないで」
「ううん感謝してる。星彩が恋の相談あるときはいつでも言ってね」
「…唯緋」

途端に仏頂面になった星彩に、冗談だと付け加えながら苦笑する。名前も出していないのにすぐ反応する星彩は、墓穴を掘っているということに気付いていないらしい。
荊州に着いたら、鈍感で真面目すぎるあの男に発破をかけてやらないと、なんて思いながら、私は大切な友人の少し拗ねたような横顔を見つめた。




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